財産をほとんど持たない父が「遺言書」を作るようです。作る意味はありますか?
遺言書は何千万円、何億円という財産を持つ資産家が作るものと思っていないでしょうか。実はそうではありません。「遺言書は相続財産の額の大小に関係なく作るべき」というのが、近年の風潮です。 そこで、「遺産となるべき財産がほとんどない」という方を例に、遺言書を作るメリットについて考えていきます。
財産が少ないから遺言書が不要とは限らない
最高裁判所事務総局「令和4年司法統計年報」によると、令和4年において、遺産分割の事件は1万2981件も発生しています。これはあくまでも、家庭裁判所に持ち込まれて、調停や審判が行われた件数です。全ての相続争いが家庭裁判所へ持ち込まれるわけではないことを考えると、現実には相当多くの相続争いが起こっているはずです。 さらに、家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割で認容・調停成立に至った6857件のうち2296件は、相続財産の額が1000万円以下でした。 これらの統計を参考にする限り、財産をほとんど持たない方であっても、その少ない財産をめぐる相続争いを予防するために、遺言書を作成する意味はあると考えられます。
特に保護が必要な家族を、死後も守ることができる
遺言書を作るときは、一般的には「誰がどの財産を、どれくらいの割合で相続する」といった具合に、各相続人の相続分を指定していきます。このとき、家族の中で特に保護が必要な方に、多めの相続分を指定しておくことで、その家族を自分の死後も守っていくことができるといえるでしょう。 例えば、相続財産が500万円の金銭で、被相続人の息子である長男と次男の兄弟2人が相続人であると仮定します。病気の弟に少しでも多く財産を残してあげたいと考えたとき、相続分を「兄200万円、弟300万円」として、治療費がかかる分だけ弟に財産を多めに残せます。 もし、遺言書がない場合、相続分は法定相続分(法律で定められた相続分)で半分ずつになることが予想されます。兄弟で合意があれば、法定相続分と異なる相続分で相続することもできますが、必ずしもそこで合意に至り、病気の弟が多めに相続できるとは限りません。 そのほか、「妻には長年住み慣れた家に住まわせつづけてあげたい」と思う方の場合は、妻に自宅を相続させる遺言書を書くことで、確実に妻に家を残すことができるでしょう。