Aile The Shotaが語る第1章の終わり、「あなた」に向けて歌った理由
序章と新章の架け橋
―序章の終わりとなるEP『Epilogue』ではどんな部分を表現したいと思ってこの4曲を入れたのでしょう。 『Yumeiro』、『FANCITY』をシングルとして出したあたりから、4th EPはヒップホップをやりたいと思っていたんですよ。4枚目で一区切りになるだろうと思っていたので、まだ見せきれてないルーツの部分とか、「本当はこれが好きなんだよ」というのを見せられたらなと。それがVLOT(「J-POPSTAR feat. SKY-HI」をプロデュース)のサウンドだったり。JP THE WAVYが僕にとって刺激を受けた人で。僕、もともとJP THE WAVYがいたクルー(Do The Right Inc.)のボスにお世話になっていて。 ―そうだったんですね。 ダンスを始めて、その界隈に弟子入りしようってなったときに、JP THE WAVYのライブを渋谷eggmanで見たんです。入れ違いだったのでJP THE WAVYと一緒に踊ったことはないんですけど。vividbooooy、Cookie PlantのMaddy Somaとかも同じ流派にいました。僕のダンスの教科書の1個目がGANMIだとすると、2個目があの人たちなので。だからダンサーからマイクを持ったラッパーになったJP THE WAVYがずっとかっこいいと思っていて、今もファンなんです。JP THE WAVY、Bleecker Chromeとかも聴いているので、(それらの楽曲を手掛けている)VLOTと一緒にやることは、Aile The Shotaの「本当はめっちゃ大事に思ってるけどまだ出してないルーツ」を見せられることになるなと。最初は「オリジナル」という曲をVLOTとやろうと思ったんですけど、VLOTとセッションしていく中で「J-POPSTARだ」ってなりました。JP THE WAVY「Real Life feat. ELIONE & vividbooooy」がすごく好きで、それからも影響を受けていると言えますし、4枚目は自己紹介フェーズの章の終わりにしたいなと考えたときに、それこそ「J-POPSTARになりたい」と思い始めたので。しかも僕ができるヒップホップがこれなんですよ。出自を歌っていて、とことんリアルで、僕にしかできないフレックスをしてる。 ―自分のヒストリーを語って、最後は“ドリカムと同じステージで夢を語る/この歌声はお墨付き”という。 それは僕が『D.U.N.K.』のステージでやったことで、これはAile The Shotaしか言えないと思ったので。それを日高さんが“ワンダーランド”で回収してくれたのはさすがだなって感じです。“ジェムソンのハイボール片手に”、未来予想図をSKY-HIと語り明かすとか、もう全部リアルですね。僕はある種、力んで書いたんですけど、日高さんはめっちゃ遊んでました(笑)。それもまたよくて。余裕があるし。“掴み取りました/Yes, I’m a POPSTAR”で、アンサーとしては終わりなんですよ。笑っちゃった。でもガチッてかまして、最後“ケツは持つぜ好きにやんな”が、日高さんの僕に対するヒップホップだと思うので。日高さんが西島さん(Nissy)と曲をやるということも聞いていたので、それとは違うことを言わなきゃって言ってましたね。同じコンセプトではないですけど、日高さんと西島さんの曲もあの2人だから歌える目線の曲だったので。 ―SKY-HIを自分の曲に招くというのは「満を持して」ですよね。 ですね。初めて客演で呼ばせてもらったので。俺がBMSGやSKY-HIに媚びないタイミングでやることが絶対に必要で。いい意味で対等にやれるタイミングがここだっていうことを直感的に思って。でもきっかけはふわっとした感じでした。よくフェスとかにSKY-HIの客演として呼んでもらっているので、もう1曲、ヒップホップなノリいいやつほしいよね、という話を日高さん家でしゃべっているときだったんですけど、「オリジナルという曲を書くんですけど……日高さんじゃね?」みたいな(笑)。満を持してAile The Shota feat. SKY-HIだけど、重たくないっていうのが僕ららしいかなという気がします。これをVLOTのビートでやれたのは嬉しかったですね。 ―リード曲「Epilogue」を、「IMA」を一緒に作ったKNOTTと再びタッグを組んでやろうと思ったのはどういう想いからでしたか。 「No Frontier」を入れずに新曲4曲にすることも考えていたんですけど、「Pandora」「J-POPSTAR」が入ることが決まったときに、これは「No Frontier」も入れたいと思って。それは、ワンマンのセトリとかも僕は歌詞を重視して「これを歌ったあとにこの曲を歌うといいんじゃないか」って考えるんですけど、「J-POPSTARです」と歌ったあとに「No Frontier」で愛を歌うのが見事にハマると思ったからで。でもそこで「リードをどうしよう」ってなったんですよね。それがちょうど1stワンマンツアーが終わったくらい(7月末)。「IMA」はツアーで一番化けた曲で、ライブパフォーマンス的にもリリック的にも「めっちゃAile The Shotaだわ」ってなったんですよね。それで(KNOTTがいる)姫路へ行って、「『IMA』の進化系を作りたいです」「EPのタイトルは『Epilogue』にしようと思ってて」というところから始めて2日間セッションしました。初めてできた、誰かに届いてほしい、及び、誰かの人生に何か影響を持ったとしても後悔ない曲が「Epilogue」。「この曲によって救われました」という言葉をまっすぐ受け入れられる曲。他の曲が違うというわけじゃないですけど、「あなたに向けて書きました」っていうのは初めてでした。ただ生きろって伝えたいだけの歌を歌おうと思って。 ―4枚のEPを作る中でAile The Shotaのアイデンティティにもなった「愛」と「死生観」のテーマを集約したような曲ですよね。 そうですね。客演も含めて自分の心を言葉にする2年間であり、死生観、ラブ、エゴとか、Aile The Shotaの基盤を作る2年間だったと思います。それが集約したなと思いますね。“流れ星”から始めて「IMA」の回収をしていたり。「IMA」では、僕がいなくなったときに曲として自分の存在を残したい、という音楽をやる理由とかを歌っていて、変な話、これが本当に人生のエピローグになったとしてもこの曲ができたのなら、というくらいの感覚でした。 ―序章では自己紹介的な意味も含めて自分のことをリアルに歌うものが多かったけれど、この先はリスナーに向けた言葉も書いていきたいと前に言ってましたよね。「Epilogue」はそれらが混ぜ合わさったもので、そういう面でも序章と新章の架け橋になっていると思いました。 そうですね。自分のことと「あなたに届いてください」というものが1曲の中で混在しているので。これを書いているときが、死というものに対してセンシティブだったタイミングで。いろんな人の死を想って書いているんですよね。ヴァースには「ここではこの人を想って書いている」というのがいくつかあって、サビでは「あなた」に歌ってます、という。それはワンマンですごい景色を見られたからこそ書けたところでもありました。マイクを持って誰かに向かって届けている自分を思い浮かべながら綴った言葉もあります。なので本当に、今じゃなきゃ書けなかったなと思います。 ―死に対してセンシティブになっていたのは、どうしてだったんですか。 身内の不幸だったり。「え?」って、結構受け入れられない感じだったんです。あとやっぱり、自分が不特定多数の人に見られる職業になったときに、同業者の自殺は感じ方が全然違って。ツアー中に自分の中でそういうタイミングがあって、自分がマイクを持つ意味とか、なんで音楽をやっているのだろうとか、めっちゃ考えたんですよね。マイクを持っているからこそ綺麗事も言いたいし。それがないとワンマンに来る人に対して失礼だなとも思う。何を届けて、何を受け取ってもらって、何を持ち帰ってもらうんだろうと考える中で、死について考えたときに、自分の大事な人に生きろって歌いたかった。死なないでほしい、というところに集中していた気がしますね。それ以上はない。 ―究極ですよね、「愛しています、生きろ」って。 究極。『LOVEGO』が僕の中で究極だと思っていたんですけど、もう一個先がこれでした。愛の上に命があった。それがこの曲な気がします。この4枚で大事なことを全部言ったかもと思うから、今後はファンタジーとか、女性目線の曲とか、色々ラフに書けそうだなと思いますね。 ―「Epilogue」も、トラック自体がかなり個性的ですよね。ジャージーやヒップホップのビートを柔らかくて美しい音色で包み込むような。 これはKNOTTの二人と超クリエイティブしたなって感じがします。一個言ったのは、ロックフェスをジャックしたいということで。Vaundyとかもそうですけど、ポップスでフェスをジャックする力を持ってる曲がほしくて。Bメロはジャージーを織り交ぜてみようってなって、フックでは一気に音が抜けるような。それこそ僕はONE OK ROCKとかも通ってきているので、メロディラインとか拍の取り方はワンオクがちょっとよぎりました。全体の壮大な感じとかは、「IMA」から影響を受けつつも、宇多田ヒカルさんとか、音像でいうとXGとかも参考にしたので。かなりいろんな要素を取り入れて、正解がないものを作っていった感じでした。KNOTTの二人も僕と同じくらいの思い入れを持ってくれて、音像とかも正解のないもの、新しいものを作ろうって、かなり探求してやりました。僕の曲の中だとボーカルがかなり前にあるんですけど、鳴りももちろんいいし、深いし、壮大だし。これは新しいJ-POPを作りたいというマインドでできた曲だと思います。ニュースタンダードになってもいいくらいの音像な気がしますね。 ―4th EP『Epilogue』のジャケットは、1st EP『AINOCENCE』のジャケットと近い構図で、1stは「何色でも染まれる自分」を表現するための「白」であったのに対して、今回は「黒」がテーマですよね。そのあたりはどんなストーリーを思い浮かべながら作っていったのでしょう。 序章の締めくくりとしては1stと同じチームでやりたいなと思って。クリエイティブチーム、フォトグラファー、ヘアメイク、スタイリスト、全部同じチームで、『AINNOCENCE』の反転版みたいなものにしたい、という感覚で作り始めました。同じ椅子に座って、衣装も同じブランドで色違いみたいなものなんですよね。白と同じで「何色でもない」という感覚なんですけど、その感覚の中身が違うと思います。白は何も持ってない状態だけど、黒色は「色々取り入れました」というところで、次は全部持っている状態から始まる。残像になっていることとかも、僕としては意味を持たせています。 ―何色にも染まれるところから、逆に何色も自分色に染められるようになった、とも言えそうですよね。それを確信できたこの4枚のEPでもあると。 めっちゃそうです。どのプロデューサーのビートに乗ってもアイデンティティを強く出せる。染められる側になったなと思います。本当に、2年とは思えないですね。僕の吸収した量がとんでもないので。Aile The Shotaのこの2年の成長速度の理由は、いろんな人と一緒に曲をやったからだと思います。コラボした相手の歌い方とかワードセンスも吸収できるし、いろんなプロデューサーとやることでアプローチも引き出しも増えたし、耳もよくなったし。だからそれは引き続きやりたいなと思います。 ―最後に、2024年、そしてAile The Shotaの次の章で、どういうシーンにとってどういう存在でありたいのかを語っていただいて締めくくろうと思います。 大衆的でありたい。大衆に寄せず、Aile The Shotaのまま、大衆的な存在になる。そういうアーティストっていると思うんですよ。『紅白(歌合戦)』に出てるメンツの中にもそういう人たちがいるし。そういうところに食い込むことが、BMSGにおけるAile The Shotaの存在意義だと思います。せっかく音楽をやってステージに立つなら、J-POPSTARとして自分の想いや思想を歌いたいなと思いますね。 4th EP 『Epilogue』 Aile The Shota BMSG 発売中 Aile The Shota Oneman Tour(タイトル未定) 2024年2月12日(祝月)広島 CLUB QUATTRO 2024年2月25日(日) 熊本 B.9 V2 2024年3月10日(日) 北海道 札幌 PENNY LANE24 2024年3月20日(祝水)新潟 LOTS
Yukako Yajima