梱包材の気泡シートはなぜ指でつぶされるようになったのか? 『プチプチ®』8つの謎に迫ってみた
壊れやすい物を包むときによく使うあのポリエチレン製のシート。指でプチッとつぶす行為の中毒性にハマる人は多く、長年『プチプチ®』の愛称で親しまれている。一般的には「気泡シート」と呼ぶようで、このプチプチという名称は実は開発・製造元である川上産業㈱の登録商標でもある。 【どういう事態?】なぜこんなことに…公園の遊具がプチプチで梱包されてしまった‼ では、このプチプチはなぜ、指でつぶれるようになったのだろうか。8月8日の「プチプチの日」に出版されたその名も『プチプチ® なぜつぶされることを防ぐために生まれた気泡シートは指でつぶされるようになったのか』(プチプチ文化研究所・編/マイナビ出版)では、川上産業社内にあり、23年間にわたってプチプチに関する情報を収集してきたプチプチ文化研究所が、その問いに答えた一冊だ。 そもそも人間がプチプチを指でつぶしたくなる現象は心理学的には「アフォーダンス」というそうで、扉があったら開けてみたり、ボタンがあったら押してみるといったものと同じ衝動らしい。では、なぜプチプチをつぶす行為は人の心を広く癒やすことになったのか。『プチプチ®』では同研究所がまとめたプチプチに関する情報を広く取り上げているが、そのごく一部を紹介する。 ◆①「プチプチ®には公式のつぶし方がある」 プチッと潰せばストレス解消になるプチプチには公式のつぶし方がある。基本は軽く丸めた人差し指と親指でプチプチをはさみ、力をこめてつぶす「親指つぶし」。それ以外にもカッターでひと粒ひと粒ゆっくりと切り込みを入れる「サイレントつぶし」。プスッという感覚がハマるという。また、湯舟などでつぶして小さな気泡を楽しむ「水中つぶし」、床に敷いたシートの上をごろごろと転がって体全体で豪快につぶす「ごろごろつぶし」なども。2人でやる「源平つぶし」や4人でやる「麻雀つぶし」などの対戦型のつぶし方もある。一気につぶす「雑巾絞りつぶし」はファンからは邪道だとされており、非公式になっている。 ◆②「つぶすため専用に開発されたプチプチ®がある」 いつでもどこでもプチプチしたい人のために生まれた『プッチンスカット』という商品がある。見た目はトイレットペーパーのようだが、ミシン目で簡単に切れて1シート約3分でつぶせるサイズとなっている。バッグなどに忍ばせておいて、いつでもどこでもプチプチすることが可能だ。さらに通常よりも3倍もの大きな音が出るように設計されており、その爽快感はアンガーマネジメント効果もあるとか。 ◆③「1万個に1個、ハート型の〝ラッキープチ〟がある」 川上産業のプチプチ®には1万個につき1個の割合でハート型のものが含まれている。見つけたらちょっぴり幸せになる「ラッキープチ」なのだ。使う人が四つ葉のクローバーを見つけた時のような「ラッキー!」という喜びを日常でも感じられるように、という願いがこめられているとのこと。粒の直径が1㎝のプチプチと四角いプチプチ「スパスパ」、静電防止(ピンク色)や環境対応のエコハーモニー(水色)などに入っているという。 ◆④「実は1000種類ある」 定番の透明プチプチだけでもやわらかさや粒の大きさによって多くのバリエーションがあるほか、静電気を防止する「ピンクプチ」、片面にクラフト紙がラミネートされていて封筒の素材になる「C37クラフトB」、粒の高さが1mmでかさばらない「スマートプチ」などの特殊加工プチプチも。世界で初めて商品化に成功したハート型の「はぁとぷち」にはカラーバリエーションもある。粒が四角でまっすぐ手で切ることができる「スパスパ」はプチプチの進化形だ。 さらにサトウキビ由来の原料を10%以上使用した「バイオプチ」、生分解プラスチックを使用しており、土の中で分解される「生分解プチ」など、環境に配慮したものも。また、プチプチと同じ構造で作られるプラスチックボード「プラパール」はゲーミング空間やテレワーク部屋などの資材として使用されている。 ◆⑤「4tトラックで轢いてもつぶれなかった」 トラックで轢くとどうなるかを実験。タイヤの溝などにはさまった石などで1点に力が加わらないように2枚の鉄板の間にプチプチをはさんだものを時速20㎞で走る4tトラックの前輪と後輪で2回轢いてみた。トラックが通過した後、鉄板を持ち上げてみると、なんとプチプチは1粒もつぶれていなかった。力がかかる面積が広かったために分散されたおかげだと思われるが、驚きの強さだ。 ◆⑥「実は保温効果もすごい」 プチプチを体に巻いて寒さをどれだけしのげるかをサーモグラフィーで見てみると、プチプチで巻かれている部分は外の空気よりもはるかに温かくなっていることが分かった。この性質を利用して、災害時に避難所の床に敷いて床の冷たさを軽減したり、毛布代わりにすることも可能だ。実際に能登半島地震では避難所の隙間風防止対策や、住宅の地震で隙間の空いた床や壁に貼って環境改善にも使われた。また、凍ったペットボトルにプチプチを巻いておくと溶けにくくなることも実験で証明されている。 ◆⑦「どこまで大きくできるのか挑戦したことがある」 通常は指でつぶせるサイズのプチプチはどこまで大きくすることができるのか。工場と同じ仕組みで1粒だけ特大サイズを作ってみたことがある。金型にポリエチレンのシートを密着させ、空気を閉じ込めて別のシートをかぶせるという工程で帽子サイズの特大プチプチを作成。直径20㎝まで大きくすることに成功した。もはやプチプチというよりは枕やクッションのような見た目となった。このときは直径20㎝のものを作成したが、金型があればもっと大きくすることも可能だそうだ。 ⑧「プチプチ®でものを包むとアートになる」 その親しみやすさゆえに数々のアーティストも作品に使用しているプチプチ。新進気鋭のアートユニット『ANCHROME』はプチプチで遊具や車、ボートなどを包んだ作品を発表している。彼らがプチプチで表現するのは、多様性や他者への配慮が厳しく要求される現代において、その緩衝材は必要なのかという、「守る」という行為に対する社会への問いかけだという。 書籍ではこれ以外にもプチプチの魅力を伝える〝ネタ〟の数々が豊富に紹介されている。プチプチの魅力はさまざまで、おそらくハマるポイントも人それぞれなのではないかということがよく分かる内容だ。これを読めば、なぜ緩衝材だったプチプチが指でつぶされるようになり、多くの人に愛されるようになったのか。読んだ人にとってのその答えが見つかるだろう。 『プチプチ® なぜつぶされることを防ぐために生まれた気泡シートは指でつぶされるようになったのか』(プチプチ文化研究所・編/マイナビ出版)
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