東京・江戸川区の駄菓子屋さんが“居場所”に「互いにラベリングすることなく、一人の人として関わって、受け入れていく場所なんです」
帰国後、石川さんはスイミングスクールのインストラクターなど、様々な仕事を経て、2019年からは江戸川区の学級指導補助員として、不登校の中学生に寄り添います。 最初は「高校には行かない」と話していた生徒と、じっくり話し合いを重ねて、何とか、高校に進学することが出来ました。大きなやりがいと共に学習指導補助員を任期いっぱい務め上げた石川さんは、新たな職場に移って、いままでにない仕事と出逢うことになります。 石川さんを待っていたのは、駄菓子屋さんの店長という仕事でした。それも、江戸川区肝入りの、ひきこもり状態にある方にとっての居場所や、働く体験が出来る場所を兼ね備えた駄菓子屋さんだといいます。 なぜ、江戸川区は、このお店を開いたのでしょうか? じつは区の丁寧な聞き取り調査で、およそ9000人のひきこもり状態にある方がいて、自宅以外の居場所や人とつながりを作るきっかけを求めていることが分かりました。その声に応える形で、お店が出来たというわけなのです。 とはいっても、ひきこもり状態にある方を支援する取り組みは、いままでにあまり類を見ません。とくに併設された駄菓子屋さんで働く体験が出来る仕組み作りは難しく、石川さんは、数人のスタッフの皆さんと一緒に、手探りで動き始めました。 話し合いのなかで、お店を、三つの「基地」に見立てていくことが決まっていきます。 まず、いろいろな人が繋がることが出来る『連結基地』、心の拠り所としての『安全基地』、そして、次の一歩を踏み出す『出発基地』。 なかでも大事な『安全基地』の役割を守るために、居場所のルールを1つだけ作りました。 「相手を否定しないで、いったん、その人の価値観を受け入れましょう」
このルールの下、「よりみち屋」がオープンしてから一年半あまり、およそ220人のひきこもり状態にある方が勇気を出して、お店を訪れてくれました。なかには、就職に繋がった人もいるといいます。石川さんは、お店に来てくれた人から、こんな嬉しい言葉を聞くことが出来ました。 「インターネットではない現実の世界で、こうして私の声を否定せずに聴いてくれて、目を見て褒めてくれる人が、同じ世の中にいるということが、とても力になりました」 しかし、新たな一歩を踏み出すきっかけを掴めていない方は、まだまだいます。そのなかで「よりみち屋」に足を運んで下さる方は、何かの希望を持っているといいます。一人でも多く、わずかでもその希望の光を見つけるためにも、石川さんは、「よりみち屋」を一日でも長く続けていきたいと願っています。 「ここは、駄菓子を買いに来た子供たちも、体操イベントに来てくれたお年寄りたちも、体や心に障害を持った方も、出来れば外国人の方も、そしてひきこもり状態にある方も、互いにラベリングすることなく、一人の人として関わって、受け入れていく場所なんです」 みんなが生きやすい社会を目指して、石川さんはきょうもお店に来てくれた一人一人に寄り添って、その話に耳を傾けます。