大ヒット映画『君の名は。』 キネマ旬報ベスト・テンは、なぜ圏外?
「アナ雪」も「永遠の0」も圏外
2015年興行収入1位だった『ジュ ラシック・ワールド』は、4人の選考委員がベスト・テン内に挙げたものの、外国映画では34位。2014年、254億円というモンスター級のヒットを記録し興行収入1位に輝いた『アナと雪の女王』も、「キネマ旬報ベスト・テン」では3人の選考委員がベスト・テン内に入れただけで、70位という結果だった。 ちなみに2014年の邦画興収1位だった『永遠の0』も「キネマ旬報ベスト・テン」では26位(公開が2013年だったので、順位は2013年のもの)だった。 一方で、近年の「キネマ旬報ベスト・テン」の日本映画1位を見ると、2015年が『恋人たち』(松竹ブロードキャスティング=アーク・フィルムズ)、2014年が『そこのみにて光輝く』(東京テアトル)、2013年が『ペコロスの母に会いにいく』(東風)、2012年が『かぞくのくに』(スターサンズ)、2011年が『一枚のハガキ』(東京テアトル)と、公開規模は小さいものの、人間を正面から描いたメッセージ性が強い作品が並んでいる。 以前、ある映画評論家が「『キネマ旬報ベスト・テン』や『日本映画プロフェッショナル大賞』などは、作家性の強い作品が好まれる傾向があり、日本アカデミー賞は大衆性が重視されている」と話していたが、今年の「キネマ旬報ベスト・テン」も、前述の1~3位以外にも、『ディストラクション・ベイビーズ』、『永い言い訳』、『湯を沸かすほどの熱い愛』、『オーバー・フェンス』など、まさにそんな傾向が当てはまるラインナップとなっている。
選考委員たちの嗜好はより強い作家性?
決して『君の名は。』が、大衆性の勝ったエンターテインメント作品という決めつけで、ベスト・テンに入らなかったというわけではないだろう。 新海誠監督が作り出す写実的な映像の美しさや、登場人物が抱える孤独や焦りなどには、しっかりとした作家性が感じられる。 では、なぜ上位に入らなかったのか。それは『君の名は。』の評価が低いのではなく、『君の名は。』ほど知名度はないものの、他にも力のある作品はたくさんあり、その存在をより多くの方に知ってもらいたいという評論家らの思いが、ベスト・テンへの投票に託されるからなのではないか。「キネマ旬報」に掲載される選考委員の選評からも、そんな個性的な作品への支持が感じられる。 「本当は公開前に、そんな個性的な作品に観客がリーチできる評論なり、紹介なりがきちんと届けられるのがベターだとは思います。けれどいまは劇場公開が終わった後もDVDなどのソフトや配信などで見られるチャンスがありますし、ランクインしたことによる凱旋興行などもありますので、目に触れた映画に再び陽の目があたるといいなあと思います」(関口氏) 一方、「キネマ旬報ベスト・テン」で2位だった『シン・ゴジラ』は、現代社会に対して非常に強いメッセージ性を内在しながら、エンターテインメント作品として興行的にも大成功を収めるという、ある意味で2016年最大の衝撃的作品だったのかもしれない。 (文責/磯部正和)