修理・修繕の復権に繋がる? フランスでリペアボーナスが登場。
お気に入りのスニーカーのかかとの内側が破れてしまった。新品を購入しようにも気に入ったモデルがなく悩んでいたら、ヴェジャの販売員が「よくある損傷なので修理できますよ」と言うので驚いた。 革靴ならソールやヒールを直すけれど、スニーカーの修繕には思いがおよばなかったのだ。ヴェジャは当初、リサイクル目的で不要スニーカーの回収を始めたが、修理できるものが多いことに気付いて2020年にボルドーで修理サービスを開始。今年2月にオープンしたパリ10区のコルドヌリー(靴修理店)には、たった1カ月で268足が持ち込まれた。
Veja General Store 11, rue de Marseille 75010 www.veja-store.com/fr_fr/store-general-store-fr
修理・修繕の概念が見直されている。廃棄から修理へのマインド転換を図り家計を応援する目的で、フランス政府は22年12月にリペアボーナス制度を開始した。資金源は生産者側で、3つの団体がシステムを支えている。家電では現在、洗濯機からドライヤーまで70品目あまりを対象に、それぞれ10~60ユーロの修理費を援助。とはいえ、技術の進歩で新製品の性能が上がる家電は修理より買い替え気分が大きく、ボーナス効果はいまひとつ。今年1月には適用家電の数を増やし、ボーナス額もアップして効果促進が図られている。
服と靴にもボーナスの適用が始まったのは昨年11月初め。ファスナーが壊れた、裏地が破れた、など対象はあくまで修繕で、認定業者への持ち込みが条件となる。認定業者には街の伝統的な「Retoucherie」「Cordonnerie」は少ないが、エコロジーを掲げるクリーニングチェーン、遠隔でも利用できるオンラインサービスを提案する「TILLI」、アプリ経由でリタッチを請け負う「FIX THAT SHIRT」などのスタートアップもあって、修理が決して過去の遺物ではないことがうかがえる。だが手数料の値上がりやファストファッションの登場で、修理より新品が安いという意見も否定はできない。 修理しながら長く使うのか、壊れたら捨てるのか。その差はメンタリティ、金額、クオリティ、環境へのインパクト、どれをとっても実に大きい。リサイクルを意識してゴミの捨て方に気を配り、アップサイクルという言葉も浸透した。ヴィンテージ購入が社会貢献と見なされ、「買うよりレンタル」といった政府の非売キャンペーンさえ登場するいま。その陰で、壊れても捨てずに修理するという基本的な考えは置き去りにされてきたのかもしれない。修理に耐える品はクオリティの証、そんな発想の転換もまた、必要なのだろう。
Tilli 1, rue Henry Monnier 75009 https://tilli.fr ●1ユーロ=約168円(2024年5月現在) *「フィガロジャポン」2024年7月号より抜粋
text: Masae Takata (Paris Office)