なぜ日本は「法治国家崩壊状態」になってしまったのか?…主権国家の指導者として絶対にやってはならない「致命的な罪」
アメリカによる支配はなぜつづくのか? 第二次大戦のあと、日本と同じくアメリカとの軍事同盟のもとで主権を失っていた国々は、そのくびきから脱し、正常な主権国家への道を歩み始めている。それにもかかわらず、日本の「戦後」だけがいつまでも続く理由とは? 累計15万部を突破したベストセラー『知ってはいけない』の著者が、「戦後日本の“最後の謎”」に挑む! 【写真】なぜ「日本の戦後」だけがいつまでも続くのか?…日本の「末期的状況」とは 本記事では、〈日米同盟の「創世神話」…自民党がもらっていた巨額の「秘密資金」と「選挙についてのアドバイス」〉にひきつづき、CIAと日本の政治家のかかわりについてくわしくみていきます。 ※本記事は2018年に刊行された矢部宏治『知ってはいけない2 日本の主権はこうして失われた』から抜粋・編集したものです。
岸が「絶対にやってはいけなかったこと」とは?
みなさんよくご存じのとおり、そもそも岸という政治家自身が、早くからその高い能 力と反共姿勢をCIAによって見出され、英語のレッスンなども意図的に授けられて、 獄中のA級戦犯容疑者から、わずか8年余りで首相の座へと駆けあがった人物でした。 しかしだからといって、岸が外国の諜報機関の指示通りに動き、金や権力のために心 を売った人間だと考えるのは、おそらく完全なまちがいでしょう。 CIAという機関にそのような力はなく、日本以外では失敗ばかりしているということは、先ほどの大スクープをニューヨーク・タイムズ記者として放ち、それから13年後 の2007年にはベストセラー『CIA秘録』(日本語版は2008年 文藝春秋)を書いて一躍有名になった、ジャーナリストのティム・ワイナー氏が、はっきりと述べています。 とくにCIAは、報道機関や反政府デモなどを利用して気に入らない政権を転覆させることは比較的上手だが、そのあと思い通りの政権をつくることはほとんどできていな い。 パーレビを失脚させたあと、ホメイニを登場させてしまったイラン。フセインを処刑したあと、国家が崩壊して無法地帯となり、終わりのないテロとの戦いに苦しめられることになったイラクなどが、その代表的なケースなのです。 岸がCIAから金をもらいながらつくった(→『知ってはいけない2』123ページ)自民党という政党が、多くの致命的欠陥を抱えながら、60年たったいまもなお政権の座にあるのは、けっして外国の諜報機関の力によるものではなく、「保守本流」とよばれた反岸派の政策も含めたその基本方針が、日本人の願望によくマッチしたものだったからにほかなりません。 しかしそのなかで岸は、主権国家の指導者として絶対にやってはならない、いくつか の致命的な罪を犯しており、そのことがいま「法治国家崩壊状態」と私たちが呼んでいる日本の惨状につながっている。 では、その「絶対にやってはいけなかったこと」とは、具体的になんだったのか。 それらは現在の日本社会に存在する大きな歪みや矛盾、機能不全などと、どのようなメカニズムによってつながっているのか。 そして最後に、私たちは今後、どのような国際政治の力学のもと、どのような政治的 選択を行って、それらの問題を解決し、正常な民主主義国家として再スタートを切ることができるのか。 それらの問題を適切に解決するためにどうしても必要なのが、いま私がお話ししている、岸政権によって密室で結ばれたアメリカとの3つの密約が、その後の日本社会にどのような混乱をもたらしたかについての、正確な歴史認識とその具体的な分析なのです。