維新・馬場代表の「大阪都構想三度目チャレンジ」宣言は民主主義と住民自治の原則を無視した「最悪の暴挙」である
大阪都構想とは「大阪市廃止・分割構想」である
そもそも大阪都構想というものは、単なる「通称」に過ぎず、その本質は「大阪市廃止・特別区設置構想」である。 つまり、大阪市という地方自治体を解体してしまい、それをいくつかの「特別区」という、大阪市よりも財源も権限も極端に小さな自治体に分割する、というものだ。 したがって都構想が実現すれば、大阪市民は大きな財源と権限を失い、住民サービスレベルが大幅に低下することは必至なのだ(このことについての詳細は拙著『都構想の真実』を参照されたい)。 維新は「二重行政を廃止するため」と主張してはいるが、二重行政そのものは悪いものでも何でもない。例えば当方は「京都市民」だが「京都府民」でもあり、両方の自治体のサービスを享受しており、何ら不都合などない。 それどころか、京都市民の当方は、府と市の双方のサービスを享受できることから、いわば「京都都構想」なるものが実現する京都市が解体された状況よりも明らかに高いレベルのサービスを享受している。 かつての住民投票で都構想に賛成票を投じた人々は、こうした「事実」を知らないが故に賛成したに過ぎないのであり、こうした事実が知れ渡りさえすれば、賛成する市民はさらにさらに減少することは確実なのだ。 ---------- 参照)大阪都構想は、マジで洒落にならん話(1)~賛成する学者なんて誰もいない編~(現代ビジネス 2015.05.14) ---------- すなわち、こうした<真実>が住民投票の機会を通してそれなりに大阪市民に広まったからこそ、二度にわたって否決されているのである。 つまり、「筋論」から考えても、「政策論」から考えても、「都構想」の住民投票など繰り返す必要は微塵もないのだ。
対象を「大阪府民」に広げるのは、地方自治の原則を破壊する暴挙
ただし、こうした構図を認識している馬場代表は、今度は投票対象者を「大阪市民」だけでなく「大阪府民」に広げようとしている。 そうなると、賛成者は今よりも増えることになる。なぜなら、大阪市以外の大阪府民は、大阪市が持つ財源と権限を「奪い取る」「吸い上げる」ことができるのだから、自分たちにとっては「得だ」と考え、賛成に回る可能性が考えられるわけである。 しかし、それもあくまでも「短期的」な話しであって、「長期的」に考えればまったく別の側面が見えてくる。 そもそも、大阪市は、大阪府の成長の「メインエンジン」なのであり、大阪市の成長あっての大阪府なのである。にもかかわらず、その大阪市を解体し財源と権限を奪い取ってしまえば、大阪市は確実に衰退することになる。そうなれば、回り回って大阪府民も、最終的に巨大な不利益を被ることになるのである。 ---------- 参照)「都構想」は大阪の衰退を決定づける“論外の代物”(ダイヤモンド・オンライン 2015.5.12) ---------- ただし、こういう議論以前に、そもそも、「大阪市の解体」を「大阪市民自身」で決めるのではなく、「大阪市以外の府民」の意見も含めて決めようとするのは、大阪市の「自治の精神」に完全に反するものだ。 これでは、日本の政策を、アジア全体の会議体で決定するようなものである。そんなことが許されて良いはずがない。 今回の馬場氏の都構想「三度目住民投票」宣言は、 第一に、過去に否決された民主的決定を尊重せず、それを受け入れる義務を無視することを通して「民主主義」の原則を破壊するものであり、 第二に、大阪市の行政のあり方を大阪市民以外が関与して決定することを通して「地方自治」の原則を破壊するものである。 したがってそれは、民主主義や地方自治の原理原則の視点から、絶対に是認できない宣言なわけである。 要するに、大阪市民が最悪の地獄に突き落とされるか否かは、結局は、「日本人」、とりわけ「大阪人」が、この<真実>をどれだけ理解していけるのかにかかっていると言えるのである。
藤井 聡(京都大学大学院工学研究科教授)