京都疎開:新型コロナ研究のはじまり(1)【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
■浮かんだ仮説 そこで私が目をつけたのは、「インターフェロン」という、さまざまな方法でウイルスの増殖を抑えるように作用する、キープレーヤーたるヒトのタンパク質である。ヒトがウイルスに感染すると、ヒトの細胞はそれを感知し、インターフェロンという物質を作る。 これがたくさん作られるとウイルスとしてはたまったものではないので、大抵のウイルスは、ヒトのインターフェロンの産生を抑えるためのタンパク質を持っている。私が目をつけたのは、この「インターフェロンの産生を抑えるウイルスのタンパク質」である。 ここまでをまとめると、当時の私が立てた仮説は、以下のようなものであった。 ーー新型コロナウイルスとSARSウイルスの違いは20%。COVID-19とSARSの病態の違いという「大前提」は、この"20%の違い"にあり、その違いは、インターフェロンの産生を抑える能力にあるのではないか? SARSウイルスは、インターフェロンの産生を強く抑えることができる。そのため、感染した人は、SARSウイルスの増殖をうまく抑えることができず、重症化してSARSを発症する。 それに対し、新型コロナウイルスは、インターフェロンの産生を強く抑えることができない。そのため、新型コロナウイルスの増殖は、感染した人の細胞が作るインターフェロンによって抑え込まれてしまう。だからCOVID-19の病態は、SARSのそれに比べて軽くなるのではないか? 「SARSウイルスにあって、新型コロナウイルスにないもの」。つまりそれは、「インターフェロンの産生を強く抑えることができるウイルスのタンパク質」。それこそが、COVID-19とSARSの違いを決めるファクターなのではないか? これこそが当時の私の、新型コロナ研究に取り組むためのたったひとつの取っかかりであった。 ※(2)はこちらから 文・イラスト/佐藤佳 写真/PIXTA
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