映画『カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~』:宮川麻里奈監督が目撃した日常のおとぎ話
渡邊 玲子 映画『カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~』は、『魔女の宅急便』で知られる児童文学作家、角野栄子に密着したドキュメンタリー。5歳で母を亡くし、戦争を経験、結婚して間もない24歳でブラジルに渡り、35歳で作家デビュー……。そんな波乱万丈の半生を経て、90代に近づいた今、どんな日常を送るのか。アクティブでクリエイティブな日々を4年にわたって見つめた宮川麻里奈監督に話を聞いた。
映画は、2020年からNHK「Eテレ」で放送中の番組「カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし」をもとに、新たに撮影した映像を大幅に加え、構成したもの。テレビ版から引き続き、俳優の宮﨑あおいが語りを担当している。 鎌倉にある自宅を中心とした毎日の暮らし。朝から執筆して、夕方散歩に出かける。そんな日々の合間に、旅に出て新しい景色や人々に出会う。観客は、快活に動き回るカラフルな88歳の姿を追い、彼女の語りに耳を傾けることになる。 特に印象深く語られるのは、創作の出発点となったブラジルでの体験だ。角野は2年間滞在したブラジルでの二軒隣の一家との交流を『ルイジンニョ少年』に綴り、1970年に作家デビューを果たしたのだ。
角野栄子という被写体の魅力
監督は同番組のプロデューサー、宮川麻里奈。斬新な対談番組「SWITCHインタビュー」の企画をはじめ、「あさイチ」や「所さん!事件ですよ」などNHKの人気番組を数々手がけてきた敏腕プロデューサーだが、映画に関わるのは初めてだ。 映画化の経緯を尋ると、漠然と夢見てはいたものの「あくまでも個人的な妄想に過ぎなかった」と笑顔で振り返る。しかし最初から通常のハイビジョンカメラではなく、画質の良い4K、しかもニュアンスある映像が撮れるカメラを使うあたり、すでに「魔女」のパワーに導かれていたのかもしれない。 「何の当てもなく、映画になったらいいなくらいの気持ちが頭の片隅にあっただけで……。ただ、角野さんは本当に素敵な方で、ファッションにも家にも、すべてに独自の世界観があるじゃないですか。どこをどう切り取っても絵になるし、随所に強い言葉が出てくる。撮っていてこんなに楽しく、撮り甲斐のある方は他にいないなって。だから最初からあえて普通の番組とはひと味違う、特殊な質感のある映像にこだわったんです」 KADOKAWAのプロデューサーから映画化の話が舞い込んだのは、2年目の番組制作中。宮川監督は、世界各国の年齢を重ねた女性アーティストを描いたドキュメンタリー映画を片っ端から観た上で、「よし!」と決意する。 「角野さんはあらゆる被写体の中でもひときわ魅力的だから大丈夫、どう作っても魅力的な映画になるはず!と確信を持てたんですよ」 NHKに入局して今年で30年目を迎えるベテラン。著名人から市井の人まで何百人と取材してきた宮川監督がしみじみ振り返る。 「角野さんに対しては、背伸びしたり、自分をよく見せようと頑張ったりすることなく、いつも自然体で接することができました。角野さんを被写体に取材できたのは、私にとってすごく幸運なことでした」