【トランプは台湾を“見捨てる”のか?】頼清徳次期政権が進めうる新たな戦略
台湾が「捨てられたコマ」とならないために
バイデン米大統領は、米国議会での一般教書演説の中で、台湾防衛の重要性を強調し、米国としては、中国からの「仮想の侵攻(hypothetical invasion)」に対し、台湾防衛の強い決意を有していると表明した。 Taipei Timesは、このことを解説するとともに、台湾海峡の緊張を緩和するためには、自由と民主主義の価値を共有する国々との広範な協力関係が必要であるとして、フィリピン、インド、日本、韓国などを挙げている。そして、特に中台間の緊張をインド・太平洋のフレームワークの中で扱い、脅威認識を共有しつつ、米国が主導力を発揮するのが望ましい、と述べている。 Taipei Timesによれば、本年11月の米大統領選挙では、バイデンとトランプの一騎打ちになる公算が大きいが、トランプは「米国の利益を第一に」と強調し、国際場裏では「孤立主義」政策をとるものとみられており、これに対し、バイデンはこれまでの発言を見る限り、中国の経済、貿易面での不公正慣行や地政学上の膨張主義などへの警戒心を隠していない。つまり、Taipei Timesの立場は、バイデンの主張に近く、トランプが大統領になることへの警戒心を有しているように見える。
台湾の中では、米国はいざという時、台湾を見捨てることはないだろうかという「疑米論」が論じられたことがあったが、このような米国の行動に対する悲観論は、中国が流した情報戦の一端であったかもしれない。その後、中国では「台湾弁公室」の報道官が、台湾は「チェスのコマ」どころか、「捨てられたコマ」になるだろう、という類の情報を流している。
米国の歴史的な姿勢
なお、米国の台湾防衛への基本的立場を振り返っておきたい。米国政府は、台湾との間に外交関係がないにもかかわらず、「台湾関係法」(1979年4月10日)という国内法を議会主導の下で通過させ、この国内法上、実質的に台湾に防禦的性格の武器を供与することをコミットしている。 「平和手段以外によって、台湾の将来を決定しようとする試みは、ボイコット、封鎖を含むいかなるものであれ、西太平洋地域の平和と安全に対する脅威であり、合衆国の重大関心事と考える」(第2条)、というのは、終始変わらぬ米国の立場を記述したものである。 武器供与を含め、米台間で具体的にいかなる対中戦略・戦術がとられているかについては、一般に公開されていない。しかし、最近も米軍の特殊部隊が台湾本島において台湾軍との間で共通の軍事演習を行ったことが報じられており、米台間での緊密な軍事協力関係が維持・強化されていることがうかがえる。 他方、「一つの中国」との立場を固持する中国は、頻繁に台湾周辺海域の中間線を越える海域に軍艦・軍用機を送り、台湾を恫喝している。特に、最近は、台湾の離島「金門島」を囲む形で、この海域に軍艦を「常駐」させ、現状変更を試みていることは、強い警戒心を要する点である。
岡崎研究所