ファストリ柳井氏「異次元の成長をしたい」 紡績の取引工場は半減へ
「従来の概念を超えた異次元の成長をしたい」。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は4月11日に開いた決算説明会でこう力を込めた。 【関連画像】ユニクロの取引先の生地編立工場(写真=ファーストリテイリング提供) 同日発表した2023年9月~24年2月期の純利益は前年同期比28%増の1959億円と同期間として過去最高を更新した。欧米や東南アジアのユニクロ事業が好調で、米国ではTシャツやジーンズなどを拡販。欧州は女性や10~20代の若年層の売り上げが伸びた。「北米や欧州は事業成長の好循環に入っている」(岡﨑健最高財務責任者) 決算発表に合わせて24年8月期の純利益予想を従来予想から100億円上方修正し、前期比8%増の3200億円になる見通しを示した。4期連続の最高益となるが、それでも柳井氏は慢心を戒めるように「現状のささやかな成功に満足して、自らを過大評価してはいけない」と語った。 今や時価総額は約13兆円に達し、ソフトバンクグループや三井物産をしのぐファストリ。ユニクロ事業の成長の原動力はベーシックな衣料品に特化した生産体制とサプライチェーン(供給網)管理だ。 ファストリは自ら企画した商品を工場に生産委託するSPA(製造小売業)の事業モデルだ。商品の調達コストを抑えられる利点があり粗利率は23年9月~24年2月期で53%と、アパレル国内2位のしまむらより19ポイント高い。以前は他社ブランドも仕入れていたが、1989年から段階的にSPAへ移行した。 SPAを採用するアパレル企業は珍しくない。ただ、JPモルガン証券の村田大郎シニアアナリストは「ユニクロは業界内でも非常にユニークな存在だ。圧倒的な規模のメリットを出している」と指摘する。 ユニクロではファッショントレンドを追わず、幅広い顧客層が使うインナーやシャツなどベーシックな商品を集中的に取り扱う。「究極の普段着(ライフウエア)」と呼ぶシンプルな衣料品に特化することで、少ない品目を大量生産でき、1品番当たりの生産量は年100万着単位に上ることが多い。委託先の工場1社当たりの発注量を増やしたり、素材の一部をメーカーと直接交渉して仕入れたりして製造原価を抑えながら、大量の商品を安定調達している。 素材開発では東レと提携し、ヒートテックやエアリズムなど機能性の高い衣料を生み出してきた。2023年に発売した「パウダーソフトダウン」は東レの独自の複合紡糸技術「ナノデザイン」を採用し、柔らかな風合いと微妙な光沢を出した。東レは社内にユニクロの窓口となる専任部署「GO事業部」を置き、ユニクロの要望に応える。 SPAは自社で工場を持たないため、一般的に品質管理がしづらい。ファストリは中国などの主要な工場とは20年以上取引し、商品の質を確保している。アパレル企業の一部が人件費高騰を受けて生産拠点を移す動きとは一線を画してきた。中国・上海やベトナム・ホーチミンなどに取引工場の改善指導を担う専任チームを置き、担当者が毎週工場を訪ねる。同業のアパレル大手幹部も「日常使いのシンプルな商品づくりではユニクロにかなわない」と舌を巻く。