〈米大統領選〉前日の予想では7つの激戦州のうち5州でトランプがリードか、ニューヨークに住む中国系の住人も「トランプ!トランプ!トランプ!」と熱狂
吐き気を催すGAZA2035の青写真
午後、ジャーナリストのエイミー・グッドマンが立ち上げた独立系報道機関『DemocracyNOW!』のオフィス兼スタジオに表敬訪問。スタッフはほぼ全員、明日の選挙取材で激戦州を飛び回っていて、オフィスの中はほとんど、もぬけのから。 選挙結果が判明するであろう7日の正午過ぎに再びアポを入れて辞去せざるを得なかった。選挙日の前日にアポを入れるなんて馬鹿なことをしたものだ(訪れたのは現地時間で11月4日)。 それにしても、ダウンタウンの小さな消防署の跡地ビルから、よくここまで大きなスペースを確保するまでに維持成長させたものだ。すごすぎる。 今日の番組も、ガザの虐殺について、かなりの時間を割いてきちんと報道していた。こんな惨状をまともに報じているアメリカのメディアは、『DemocracyNOW!』以外にないのではないか。 僕が今回、アメリカの大統領選挙にこだわってみたいと思ったのは、やはりガザで起きている虐殺について、アメリカの主要メディア、ヨーロッパの主要メディアが、イスラエルを正面から批判することをなかなかしないことにもある。 イスラエルのネタニヤフ首相らが、「虐殺」終了後のガザの未来像を「GAZA2035」なる青写真に描いたものをみた。正直、吐き気を催した。この広義の「狂気」について私たちは考え抜かなければならない。 トランプ父子(ドナルド・トランプ氏本人と娘婿のクシュナー氏)が、ガザは観光地として将来性がありすぎるくらいあると述べていた。そこに住んでいたありとあらゆるものを抹消したうえで、そこに摩天楼でも建てるつもりか。いや、「GAZA2035」の青写真イラストは、そのように描かれている。
ハリスもイスラエル政府を正面から批判できない
夕刻からNY在住のジャーナリストのYさんに時間をとっていただき、ユニオン・スクエアで待ち合わせて、最終盤の情勢を聴く。Yさんの現場取材優先主義は徹底していて、きのうはペンシルベニアの小さな町での集会、今日はつかの間のNY、あしたはワシントンDCへと移動するという。 Yさんの分析では、ヒラリー・クリントンの時と最も違うのは、ひとつは若さだという。と言ってもカマラ・ハリスは今60歳だ。ヒラリーが出馬した時は70歳だった。若い世代の思いが政治に反映されないという選択肢に皆うんざりしていた。 2016年の時だ。当時はバーニー・サンダースの方に若い世代がひかれていたことははっきりと記憶している。2020年の大統領選挙の取材も現地でしたけれど、当時は、白人警官による黒人への過剰な暴力で死に至ったジョージ・フロイド事件などをきっかけに「ブラック・ライブズ・マター」の運動が大変な盛り上がりをみせ、これが全米的なデモ・暴動へと発展していた。 バイデンVSトランプで争われたあの年の大統領選では、人種差別問題が大きな争点の一つになっていた。今、移民問題が争点の柱に据えられるとは何という様変わりだろうか。 2020年の大統領選挙では、だから若い世代の意見が投票行動に一定程度反映されていたように思う。その意味では今回のバイデン大統領の出馬取り下げが若者の政治参加にどれだけの勢いを与えたか。僕にはわからない。 Yさんの現場取材の直感では、若い女性は圧倒的にカマラ支持へと勢いづいたが、逆に若い男性層はトランプ支持が増えているという。Yさんの考えでは、ガザでの戦争も含めて、今イスラエル政府の行なっている軍事行動に正面から批判的なスタンスをカマラ・ハリスが示すことはないという。 それくらいユダヤ人社会の政治的影響力は圧倒的に大きい。 ニューヨークで2日に行われたガザ虐殺抗議の市民デモ(それほどの大人数ではない)には、「Abandon Harris 2024」(ハリスを見捨てろ)というプラカードが登場していたそうだ。残念ながらどちらが大統領になってもガザの戦争の見通しは明るくない。 さあ、結果はどうなる。 文/金平茂紀
---------- 金平茂紀(かねひら しげのり) ジャーナリスト。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。以降、同局で記者、ディレクター、キャスターなど一貫して報道現場を歩む。早稲田大学客員教授など歴任。日本ペンクラブ理事(言論表現委員長)。2004年度「ボーン上田国際記者賞」、2022年度外国特派員協会「報道の自由賞」等受賞。『ロシアより愛をこめて』『沖縄ワジワジー通信』『筑紫哲也NEWS23とその時代』など著書多数。 ----------
金平茂紀