演説する下村博文氏（撮影・塩野　遥寿）

　派閥裏金事件を巡り苦しい戦いを強いられている自民党の中で、ひときわ厳しい声を浴びるのが、党員資格停止1年間の処分を受けた下村博文元政調会長（東京11区）だ。党の公認を得られず無所属での出馬。旧統一教会問題でも批判を浴びて“2大逆風”をモロに受けている。 　9期連続当選と東京11区で盤石の強さを誇ってきた下村氏が、厳しい戦いを強いられている。21日、東武東上線成増駅南口で街頭演説を行い「命を懸けて最後の政治生命、日本の再生を成し遂げたい。だからこそ厳しい無所属でも戦うことにした」と力強く訴えた。 　自民党に吹く2つの逆風の中心にいる下村氏。「政治とカネ」の問題では、パーティー券収入を巡り、政治資金収支報告書への不記載が18年からの5年間で476万円あった。資金還流の復活を巡る安倍派の会合にも出席し、塩谷立氏や西村氏、世耕弘成氏とともに“別格”の重い責任が問われている。15日に板橋区役所付近で行った出陣式では「不記載とは知らなかった」と釈明し「政党を通じて全額寄付をさせていただいた」と強調した。 　旧統一教会が「世界平和統一家庭連合」に名称変更した当時の文科相だったことにも言及。教団の活動が見えにくくなった可能性が指摘されているが「（教団の）会合に出たことは一度もない。名称変更に政治的な圧力は全くない」と話した。 　それでも、有権者からは厳しい声が上がる。演説を遠巻きに見つめていた板橋区在住の70代女性は「あんな悪いことをしておいて国会に戻すわけにはいかない。板橋の恥だ」と痛烈に批判。「真面目にやっている方に投票したい」と言い残し足早に過ぎ去った。 　「街頭演説と選挙カーでの遊説で地元を回り、おわびと説明を重ねていく」。陣営関係者の言葉通り、演説を聞きに訪れた一人一人と握手を交わし頭を下げる“おわびの選挙”を続けている。 　安倍派の会長代理、文部科学相など要職を歴任。党政調会長を務めた21年には、総裁選出馬の意欲を示すなど「次期首相」の座をうかがう姿勢も見られた。これまでの選挙は応援のため全国各地を回ってきた。地元での演説は各選挙期間で1日のみが普通だった。だが今回は、公示から投開票まで全日程を選挙区内で必死に声を上げる。 　報道各社の情勢調査では、下村氏は立民から出馬した阿久津幸彦氏と接戦もしくは劣勢。「終盤に向けて下村氏が苦しくなるのでは」という見立てもある。非公認では比例代表との重複が認められず、配布できる選挙ビラも少なくなる。向かい風は強くなるばかりだ。（塩野　遥寿） 　≪立民・阿久津氏が優勢「汚い政治はまっぴら」≫各社の情勢調査で下村氏をリードするのが立民・阿久津氏。民主党政権時代の11年には、東日本大震災の政府現地対策本部長代行として発災直後の被災地で活動した経験から「災害対策の専門家」を自負する。選挙カーには「汚い政治はまっぴらだ」の文字。陣営関係者は「前から言っていることですが、今回はぴったりかと」と下村氏への意識を口にした。同関係者は「（下村氏は）非公認とはいえ、区議会議員が多く応援についている。悪名は無名に勝るじゃないけど、やはり地力の強さは感じる」と警戒を強めた。