阪元裕吾監督の『ベイビーわるきゅーれ』がヒットした理由「自意識はマスとオタクの中間くらい」
映画の中で一番重要なことは何かを見極める
――インドネシアのアクション映画『ザ・レイド』で使われた武術シラットや、中国・香港合作のアクション映画『イップマン 序章』で使われた詠春拳など、阪元監督のハイクオリティな格闘演出は、作品ごとにアクション監督やコーディネーターが変わっても、芯を変化させず保ち続けている印象です。 阪元 脚本家として、一貫した見せたいものがあるからテイストが保てていると思います。具体的には“物語のラストでちゃんと主人公と敵役のタイマンバトルがある”などですね。 ――ディティールよりも構成にこだわるからテイストを維持できるというのは面白い考え方ですね! 阪元 まあ僕はアクションを作ってないしプレイヤーでもないので、構成やセリフでどう盛り上げられるかをずっと考えていますね。ストーリーがあまりにもつまらないとアクションシーンも虚無の心で見ることになってしまうじゃないですか。そうはしたくないので。溜めのシーンはあまり作らないようにしてます。たぶんせっかちな大阪人で20代だからな気がしていますが。
オタクになりきれなかった自意識が切り開いた道
――ジャンル映画的なこだわりを通したいという目的があるなかで“ディティールにとらわれすぎない視点を持つ”など、阪元監督の感覚は非常にフレッシュに感じます。そうした感覚の源泉はどこにあると思いますか。 阪元 思い返すと、最近ツイッターでもたまに見るようになってきた「オタクっぽいのになんのオタクでもない人」、あれって中学時代の自分にも当てはまって。その辺りから繋がるものがあるのかもしれませんが、2000~2010年代くらいにブームになった、オタク×童貞物映画にも、そのアングラな空気にあまりハマれなかったんです。 めちゃくちゃ鬱屈とした学生時代を過ごしたわけでもないし、すっごいアニメにもはまったわけでもないし、シネフィルになったかと言われればそうでもないし、かと言ってめちゃくちゃキラキラした青春も送ってないし、という、まあ簡単に言えば普通の人だったんですよね自分が。 多分僕は、いわゆるマス層とオタク層の中間くらいに自意識がずっとあったと思うんです。マス層とオタク層が混ざり合う今の時代で作品が評価されるようになったのは、こうした感覚にフィットしたからかもしれません。 ――最後に、邦画界でオリジナルの映画を発表していくために大切にしていることがあれば教えてください。 阪元 「ネムルバカ」が発表されたのでオリジナル映画しか撮らない監督ではないのですが、まあそうですね……、「ベビわる」シリーズの笑えるシーンも、やっぱり撮る前とか撮ってる間はぽかんとしていることが多い。「ベビわる1」のヤクザがメイド喫茶に来るシーンとか、試写で見てたんですが俺と伊能昌幸しか笑ってなかったです。 それがやっと「ナイスデイズ」辺りから空気が変わってきて。「ナイスデイズ」の、とある入鹿みなみの独白のシーンでも、録音部の小牧さんが「クソおもしろいなこれ」ってつぶやいてくれて。高校演劇のころからずっと信じてた笑いやアクション、ひいてはお客さんを楽しめることを信じてよかったなと最近感じています。だからあれこれ手を出さず、自分の信じたことをずーっとやり続ける。ですかね。 『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』 2024年9月27日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開 配給:渋谷プロダクション ©2024「ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ」製作委員会 監督・脚本:阪元裕吾 出演:髙石あかり、伊澤彩織 水石亜飛夢、中井友望、飛永 翼(ラバーガール) 大谷主水、かいばしら、カルマ、Mr.バニー 前田敦子 池松壮亮 音楽:SUPA LOVE アクション監督:園村健介 公式HP:
むくろ幽介