《三船美佳が振り返る14歳でデビュー》優しい父・三船敏郎が人生で一度だけ激怒した日「当時の私はいじめに悩み、夢や希望も持てずにいました」
幼い頃は父が俳優だとは知りませんでした。当時は撮影所の近くに住んでいたので、朝、家を出た父が、侍の衣装のままお昼を食べに帰宅したりしていたので、「父の職業は侍で、警察の部署のひとつで、悪い人をやっつけるお仕事なんだ」と思っていました(笑)。年齢が上がるにつれ、俳優だと理解するようになり、父の作品もできるかぎり観てきましたが、残念ながら父と作品を一緒に観たことはありません。 でも、家で俳優としての父を感じることはありましたよ。夜、遅くまで起きて、台本を読みながら、びっしり書き込みをしていました。男らしく豪放磊落、エネルギッシュな演技をスクリーンでお見せしていた父ですが、思いつきやひらめきの演技ではなかったんです。緻密な演技プランをたて、それをすべて頭に入れ、台本を持たずに現場に入っていました。赤と青が1本になった色鉛筆を愛用し、それをナショナルの鉛筆削りでガリガリ削っていたのを覚えています。 私が父に似ているところ? ヒラメ筋(下腿三頭筋、ふくらはぎ)です! 『七人の侍』を観たとき、父が演じる菊千代が奥へ走って行く、その足だけが映るシーンがあるのですが、その足を観たとき「同じだ!」と気付きました。私の足も骨太で筋肉質で、思春期の頃はコンプレックスだったんです。でも、父と同じだと知ったら、そんな足も愛おしく思えるようになりました。 (第3回に続く。第1回から読む) 取材・文/中野裕子(ジャーナリスト) 撮影/小林忠春