教え胸に感謝を音に 東北ユースオーケストラの海津洸太さん(福島大) 故坂本龍一さん追悼演奏会に向け
東日本大震災の被災3県の若者でつくる東北ユースオーケストラは23日、昨年3月28日に71歳で亡くなった代表兼監督・坂本龍一さんの一周忌追悼演奏会の初演を盛岡市で迎える。「世界のサカモト」が伝えた苦境を生き抜く力、被災地に寄り添う姿勢を引き継ぎ、発信する舞台。楽団員は「感謝と復興への思いを音に込める」と誓う。全力で取り組む姿を多くの人に見てもらい、不世出の音楽家が願った震災の記憶の風化を防ぐことにつなげる。30日には郡山市でも催す。 福島県白河市出身で福島市在住のキャプテン海津洸太さん(20)=福島大行政政策学類2年=にとって、「恩師」だった。失敗して震えた手を握ってくれた時のぬくもりを、今でも鮮明に覚えている。 中学2年生だった2017(平成29)年に入団し、トロンボーンに打ち込んだ。しかし、内気な性格が災いして周囲になじめなかった。そんな中、ある演奏会で重要な出だしの音を外してしまった。
もう、やめようか―。落ち込む姿を見た坂本さんは「大丈夫、大丈夫」と励まし、こわばっていた手をマッサージしてくれた。包み込むような優しさが押しつぶされそうになっていた心に活力を与えた。 「もっと自信を持って演奏しよう」。坂本さんとの触れ合いが前向きにさせた。毎月1回、福島県で行われた練習で、メンバーと積極的にコミュニケーションを取った。次第に人望が集まり、昨年春に団員約80人を束ねるキャプテンに就いた。あの時、手を差し伸べられなければ、今の自分はないかもしれないと振り返る。 かけがえのない存在を失ったショックはあまりにも大きかったが、成長した証しを音色に乗せるつもりだ。 坂本さんは多くの団員にも影響を与えた。仙台市の会社員畠山茜さん(27)は2016年から2年間、キャプテンを務め、バイオリンを奏でた。 被災者に寄り添うとは何か…。相談すると「みんなの演奏から何か受け取ってもらえたらいいね」と返ってきた。心を込めて音を出し、震災を忘れない姿勢が大切なのだと気付かされた。