[社説]大統領の風刺動画のアクセスを遮断するのが自由の国なのか
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領を風刺した「仮想演説」動画について緊急の放送通信審議委員会(放審委)が23日に開催され、同委員会は接続遮断措置を決めた。この動画は誰が見ても「仮想映像」で、したがって事実ではなく風刺として受け取るべき内容だ。それに放審委が接続の遮断という強硬策で対応したことは、表現の自由を傷つけ、政府批判を抑えつける検閲であり、批判されて当然だ。 昨年11月からSNSで共有されている約40秒のこの動画は、尹大統領が「わたくし尹錫悦は常識外れの理念にしがみつき、大韓民国を滅ぼし、国民を苦しめている」などの演説を行うという内容。大統領選候補時代の演説の映像を切り貼りして作られたと推定される。尹大統領がこの動画のような趣旨の発言を実際にはおこなっていないということは、子どもでも分かる。動画には「尹大統領が良心告白する仮想演説」という字幕までついている。 にもかかわらず放審委は「社会に顕著な混乱を引き起こす恐れのある映像」だとして、インスタグラム、フェイスブック、TikTokなどに接続遮断を要請することを決めた。どのような社会的混乱を引き起こすというのか。まったく納得できない。大統領室のキム・スギョン報道官は「たとえ仮想だと表示してあったとしても、仮想表示を削除した編集動画がオンラインで拡大再生産されているため、虚偽情報の拡散は防がなければならないという必然性に照らして、必ず根絶されなければならない」と主張した。だが、「仮想」であることを明らかにしていなくても、この映像内容を実際に誤認する可能性はほとんどないのだから、事実誤認を誘発することが目的の「フェイクニュース」とは明確に区別される。大統領室が事実誤認という副作用を懸念しているのなら、事実ではないと表明すれば済む話だ。「社会の混乱」、「虚偽情報の拡散」などと針小棒大に言いなして制裁の刀を振りかざすなど、民主政府の対応ではない。権力者を風刺するこの程度の表現さえ許されないなら、自由と民主主義は息をする空間を失うだろう。 尹錫悦政権の発足以降、表現の自由に対する弾圧が深刻になっている。青少年の描いた風刺漫画さえ弾圧した「尹錫悦列車」事件から始まり、「バイデン-飛ばせば」報道にかかわった記者の専用機搭乗からの排除と放送局での懲戒、批判的なメディアを標的とした捜査などが相次いだ。最近では大統領の警護を口実として、文字通り市民の口を塞ぐ事態まで起きた。どれも市民の自由より権力者の機嫌を優先する独裁体制でなければありえない出来事だ。 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )