Nintendo Switchで再興と躍進を続ける、任天堂のアドベンチャーゲームたち
任天堂から、アドベンチャーゲームの新作が発売され続けている。 特に2021年以降は完全新作からリメイク、続編と幅広く新作が出ている。そして、2024年8月29日にはコマンド選択型アドベンチャーゲーム『ファミコン探偵倶楽部』の新作、『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』が発売。 【画像】任天堂の名作ADVゲームたち なんと1989年発売の『ファミコン探偵倶楽部PARTII うしろに立つ少女』以来、35年ぶりの新作(※1997年、スーパーファミコンの衛星受信サービス「サテラビュー」で配信された『BS探偵倶楽部 雪に消えた過去』を含めれば、27年ぶりの完全新作)で、まさかのシリーズ再始動である。 もともと、2021年にNintendo Switchで過去2作のリメイクが発売された時点でも驚きの展開と言えた。だが、それから3年後、新作が発売されることになるとは、誰が予想しただろう。 そして気が付けば、Nintendo Switchにはバラエティ豊かな任天堂発のアドベンチャーゲーム作品が集っていた。これほどアドベンチャーゲームの新作が揃った任天堂のゲーム機というのも、なかなか久しぶりである。 同時にこの積極的な動きには、ひとつの期待と可能性が浮かぶのだ。任天堂にとっての『マリオ』や『ゼルダ』などに並ぶ、看板的存在のアドベンチャーゲーム作品が決まるのでは、というものである。 先んじて結論を言えば、「ファミコン探偵倶楽部」がそれなのだが。 ■Nintendo Switchで任天堂から出たアドベンチャーゲームは、ディスクシステムとDS時代に迫る本数に達した 2024年8月中旬時点における、Nintendo Switch向けに発売された任天堂のアドベンチャーゲームは以下の5本だ。 『バディミッション BOND』(2021年1月29日発売) 警察官のルーク、「怪盗ビースト」として知られるアーロン、陽気な忍者モクマ、詐欺師チェズレイ4人からなる潜入捜査チーム「BOND」が、犯罪組織「DISCARD(ディスカード)」の陰謀に立ち向かうアドベンチャーゲーム。 開発は「ネオロマンス」シリーズなど、女性向けコンテンツを専門とするコーエーテクモゲームスの社内ブランド「ルビーパーティ」、キャラクターデザインは『ワンパンマン』『アイシールド21』などで知られる村田雄介氏が担当している。3つのパートで構成された全18ものミッション、探索に戦闘、謎解きも交えた多彩なイベント、デジタルコミック風に描かれるボリューム満点のストーリーが特徴だ。 1988年、1989年にファミコンディスクシステム向けに発売されたコマンド選択型アドベンチャーゲーム「ファミコン探偵倶楽部」シリーズのリメイク。シリーズ第1作の『消えた後継者』、シリーズ第2作の『うしろに立つ少女』それぞれが個別に同時発売された。『科学アドベンチャー』シリーズで知られるMAGES.が開発。 コマンドを選びながら情報を集め、ストーリーを進めていくプレイスタイルはオリジナル版を踏襲。リメイクにあたりグラフィック、音楽は現代風に一新され、セリフがフルボイスに対応した(※ボイスはオプションでOFFにすることも可能)。またスキップ、バックログ、オートセーブといった現代のアドベンチャーゲームで定番の機能も網羅されている。 2016年にニンテンドー3DSで発売され、2019年には実写劇場版が上映された『名探偵ピカチュウ』の続編。ストーリーは3DSの前作『名探偵ピカチュウ』の2年後を舞台としていて、大学生のティム・グッドマンと、おじさん声(担当は声優の山寺宏一氏)で喋るピカチュウのコンビが再び難事件の解決に挑む。 前作からの変更点として、ピカチュウを直接操作するパートが新たに追加。ガーディを始めとするほかのポケモンたちと協力して謎を解くイベントも用意された。謎解きを早く終えたいプレイヤーのための正解表示機能、つまみぐいモードなる新要素も実装されている。 2005年にニンテンドーDS、2009年にWiiで発売された『アナザーコード 2つの記憶』と『アナザーコード:R 記憶の扉』を1つにまとめ、ゲームシステムを一新して再構築した作品。オリジナル版は2010年に倒産した株式会社シングが開発を担当していたが、こちらは当時のスタッフが所属するアークシステムワークスによって作られた。 再構築に当たり、本編中の謎解きはすべて一新。また3Dマップの採用で、移動と探索の自由度が向上している。他に台詞のフルボイス対応、シナリオの一部加筆と設定の変更といったアレンジも図られた。 そして、2024年8月29日には『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』が発売となり、作品数は計6本になる。 任天堂と言えば『マリオ』や『ゼルダ』に象徴される通り、ゲームメーカーとしてはアクションゲームの印象が非常に強い。 しかし、アドベンチャーゲームも定期的に作っており、とりわけ1980年代後半に発売されたファミリーコンピュータ ディスクシステムでは、さまざまな新作が発売された。『ファミコン探偵倶楽部』は、そんな時代に生まれた作品のひとつだ。 2004年に発売されたニンテンドーDSも、任天堂がアドベンチャーゲームの新作を積極的に展開したゲーム機のひとつである。前述した『アナザーコード 2つの記憶』は、久しぶりとなる任天堂の新作アドベンチャーゲームでもあった。 同作発売後にも、任天堂からはいくつかの新作アドベンチャーゲームがニンテンドーDS向けに発売されている。『プロジェクトハッカー覚醒』、『ウィッシュルーム 天使の記憶』、『ラストウィンドウ 真夜中の約束』がその一部だ。 なかには少し変わった……否、ものすごく変わったタイトルで『いろづきチンクルの恋のバルーントリップ』なるものも出ている。さらに教育ソフトでありながら、アドベンチャーゲームとしての一面も持つ『えいごで旅する リトル・チャロ』なるものも発売されている。 後継のニンテンドー3DSでは『名探偵ピカチュウ』など、わずかしか新作は出ず、WiiやWii Uでも数は限られた。しかし、Nintendo Switchでは一気に数が増え、ついにはディスクシステム、ニンテンドーDS時代に迫る本数にまで達した。 その意味からもNintendo Switchは、任天堂からアドベンチャーゲームが多数発売された、第3のゲーム機になったとも言えるだろう。 ■「ファミコン探偵倶楽部」シリーズが任天堂のアドベンチャーゲームの顔に? また、今回のNintendo Switchにおいては、それまでとは異なる傾向も見られる。特にニンテンドーDS時代と比べた場合が顕著で、任天堂内部から生まれた作品のシリーズ展開が起きている。まさしく「ファミコン探偵倶楽部」のことである。 1998年発売のスーパーファミコン向けリメイク版『ファミコン探偵倶楽部PARTII うしろに立つ少女』を最後に、「ファミコン探偵倶楽部」のシリーズ展開は長きに渡って中断していた。あったとしても、過去作が現行の環境で復刻することぐらいで、新作については出しにくいムードが漂っていた。 事実、2004年にディスクシステム版の『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』『ファミコン探偵倶楽部PARTII うしろに立つ少女』がゲームボーイアドバンスで復刻した当時。2作の原作と脚本、ゲームデザインを担当した任天堂の坂本賀勇氏は、表現の過激化や現実で起きている事件のエグさ、会社の意向などから出しにくい旨をNintendo DREAM(2004年9月6日号、9月21号)(※)のインタビューで語っている。 また、2019年6月27日に開催された任天堂の株主総会(第79期 定時株主総会)の質疑応答で「ファミコン探偵倶楽部」の質問が出た際にも、代表取締役フェローの宮本茂氏が現在、アドベンチャーゲームの制作は厳しい状況にあると回答した。 この株主総会での発言から間もない2019年9月、「ファミコン探偵倶楽部」2作のリメイクが発表されたのは記憶に新しいところである。 復活のきっかけは、開発を提案したMAGES.のプロデューサー、浅田誠氏の熱意によるもので、坂本氏もシリーズの制作意欲が蘇ったことで実現に至ったとの経緯が『コレクターズエディション』同梱の調査ファイル内で言及されている。そして、蘇った意欲は新作『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』の誕生へとつながったようだ。 この任天堂内部から生まれたアドベンチャーゲームのひとつが、事実上の再始動を見せたという点でも、ニンテンドーDS時代を踏まえれば異なる動きであり、今後の変化が注目されるところだろう。今までの任天堂から出たアドベンチャーゲームの多くは単発、もしくは新作がわずかに作られるぐらいで終わっていたためだ。 しかし、「ファミコン探偵倶楽部」は任天堂のアドベンチャーゲームの中で、最も新作が作られた作品となった。リメイクも含めればダントツで、頭ひとつ抜けた存在になったとも言える。 実際、リメイク版は国内でもコレクターズエディションが初週に好セールスを記録している。さらにMAGES.の浅田氏が2023年に電撃オンラインのインタビューで回答したところによれば、海外でもかなりの好評を博し、それなりの数を出す実績を残せたようだ。 その事実と『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』の誕生を踏まえれば、今後、『ファミコン探偵倶楽部』は任天堂のアドベンチャーゲームにおける“顔”とも言える存在として、定期的に新作が作られていくかもしれない。新作『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』の発売前日、任天堂公式サイトに掲載されたインタビュー記事「開発者に訊きました」でも、制作における後継者の誕生が坂本氏より告げられていることから、期待できそうである。 同じことは2024年1月に発売された『アナザーコード リコレクション:2つの記憶 / 記憶の扉』に対しても言える。もともと、新作が開発会社の倒産によって困難な状況に陥っていたことを踏まえれば、まさに希望の芽が出たと言ってもいいだろう。 少し興味深いものでは、コーエーテクモゲームスとの共同で作られた『バディミッション BOND』もある。発売後も朗読劇イベントが開催されたり、グッズが販売されるなど、いまなお展開が続いているのだ。こちらにもなんらかの芽が現れているのかもしれない。 ただ、主にストーリー周りにシリーズ化の余地が少ないのがその2作の課題でもある。いずれも本編が綺麗に完結しているためだ。 「ファミコン探偵倶楽部」も『消えた後継者』で事実上の完結を迎えたのだが、節々に新作を作れそうな余地が存在し、それが『BS探偵倶楽部 雪に消えた過去』や『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』につながったとされる。 それもあって、看板になれそうなのは任天堂内部で企画された作品ということからも「ファミコン探偵倶楽部」が有力だが、アクションゲームのジャンルも看板となっているのは「スーパーマリオ」だけではない。だからこそ、Nintendo Switchで誕生し、発売後も精力的な動きを見せたり、希望の芽を出した『アナザーコード』と『バディミッション BOND』にも頑張ってほしいと思う。 ■受け継がれる“遊び”を大事にする姿勢と、気になるNintendo Switch後継機での展開 アドベンチャーゲーム、その同タイプに当たるノベルゲームは一度、遊び終えたら二度と遊ばなくなるという課題を持つ。そのような特徴は、任天堂から出されたアドベンチャーゲームにも共通して存在している。 しかし、任天堂のアドベンチャーゲームは基本、ストーリーと並行して何らかの“遊び”を挟んだ作りにするのが特徴のひとつになっている。『アナザーコード』や『バディミッション BOND』で言えば、マップの探索や謎解きだ。 「ファミコン探偵倶楽部」のようなストーリー重視の作品でも、クイズ的な要素を入れたり、1人称視点を活かした3DダンジョンRPG的な探索要素を盛り込み、プレイヤーの意表を突いてくる。特定のタイミングに限って聞けるセリフ、モブキャラクターの存在も遊びにまつわる部分だ。 任天堂最初のアドベンチャーゲームである『ふぁみこんむかしばなし 新・鬼ヶ島』に至っては探索あり、(特殊ながら)戦闘もあるなど、純粋にゲームとしても遊び応えのある作りとなっている。 『ふぁみこんむかしばなし 新・鬼ヶ島』の路線をより進化させ、アクションゲーム的な要素まで採り入れた『ファミコン文庫 はじまりの森』もある。同作はある意味、任天堂のアドベンチャーゲームの特徴をすべて持ち合わせた集大成的作品と言ってもいいだろう。 そんな“遊び”を大事にするスタンスは、現行の新作においても健在。時には『カエルの為に鐘は鳴る』『マーヴェラス もうひとつの宝島』『エターナルダークネス 招かれた13人』といったタイトルにも、形を変えて引き継がれたりもしている。 題材的に血の匂いが漂いやすい点にしても、『名探偵ピカチュウ』という低年齢層のユーザーにも親しみやすい作品を用意し、バリエーションを広くすることも欠かしていない。前述では漏れてしまったが、『名探偵ピカチュウ』も任天堂のアドベンチャーゲーム特有の遊びが満載の作品であり、続編の余地が残されている。こちらもさらなる展開に期待したいところである。 いずれにせよ、一時は隅に追いやられていた感のある任天堂のアドベンチャーゲームだが、Nintendo Switchで6作も発売され、そのなかでも特にシリーズ作が多い「ファミコン探偵倶楽部」の再始動で、潮目が変わってきた印象だ。来たるNintendo Switch後継機でも、こうしたバリエーション豊かなアドベンチャーゲームの新作にお目にかかれるのか。発売される本数もNintendo Switch並になるのか。 とりわけ際立った存在感を示した「ファミコン探偵倶楽部」の新作『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』を遊びながら、今後の展開を楽しみにしたいところだ。 そして、最後にどうしても言っておきたい願望を記す。 新作もいいけど、『BS探偵倶楽部 雪に消えた過去』もいつかリメイクしてください……。
シェループ