映画祭出身の監督も凱旋!“映画祭の顔”オープニング作品から、新たな才能を発掘し続ける「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」の魅力に迫る
“若手映像クリエイターの登竜門”として知られ、今年で21回目を迎える「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024」が、いよいよ7月13日(土)~21日(日)の9日間にわたって開催。世界中から集まった、新たな才能と出会える季節がやってきた。今年のオープニングを飾るのは、串田壮史監督による『初級演技レッスン』。2020年に『写真の女』でSKIPシティアワードを受賞し、昨年も『マイマザーズアイズ』(23)で2作品連続となる国際コンペティションにノミネートされるなど、同映画祭と縁の深い串田監督は「最高の花道を用意してもらった」と感激しきり。串田監督の言葉を交えながら、毎熊克哉がミステリアスな人物を演じたオープニング作品の魅力や、同映画祭の楽しみ方に迫る。 【写真を見る】即興演技を通じて人々の記憶に侵入する男…『初級演技レッスン』で毎熊克哉のミステリアスな魅力が炸裂 ■映画祭出身監督がコンペティション部門の審査委員長に!今年は白石和彌監督&横浜聡子監督 2004年に埼玉県川口市で誕生した「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、国際コンペティションと国内コンペティションを中心にした映画祭。映画産業の変革のなかで新たに生みだされたビジネスチャンスを掴んでいく“若い才能の発掘と育成”を主軸に成長を重ね、これまでにも『浅田家!』(20)の中野量太監督、『カメラを止めるな!』(17)の上田慎一郎監督、『さがす』(22)の片山慎三監督など日本映画界のトップランナーとして活躍する監督たちを多数輩出してきた。今年のコンペティションには、102の国と地域から長編作品1,015本、短編作品186本、計1,201本の作品が集結。そのなかから選ばれた24作品は審査会で最終審査が行われ、最優秀作品賞をはじめとする各賞が授与される。 国際コンペティションの審査委員長を務めるのは、『孤狼の血』(18)や『碁盤斬り』(公開中)などエネルギッシュな作品を手がけ、常に新作を待ち望まれる存在となった白石和彌監督。2009年に『ロストパラダイス・イン・トーキョー』でSKIPシティアワードを受賞した白石監督は、「ここから僕の映画を作る人生がスタートを切ることができた」と同映画祭は自身の原点だという。そして『ウルトラミラクルラブストーリー』(09)や『いとみち』(21)など、個性あふれる人々を愛情深く活写してきた横浜聡子監督が、国内コンペティションの審査委員長を務める。横浜監督は「自由で刺激的な作品に出会えることを、心より楽しみにしています」と興奮しながら開催を待ち侘びている。 また映画祭期間中は、白石監督による『止められるか、俺たちを』(18)、横浜監督による『ウルトラミラクルラブストーリー』を上映する「商業映画監督への道」と題した特集も用意された。両監督はトークイベントにも参加し、若手映画監督に向けて商業映画監督としての経験を語るというから、貴重なトークに期待が高まる。 ■オープニング作品『初級演技レッスン』は、「登場人物の過去が徐々に明らかになっていくミステリー要素のある作品」(串田監督) 映画祭の幕開けを華やかに彩るオープニング作品も、毎年大きな注目を集めている。2019年は上田監督をはじめ、『カメラを止めるな!』のクリエイターが再結集した『イソップの思うツボ』。2022年は2018~20年と3年連続で受賞を果たした磯部鉄平監督による『世界の始まりはいつも君と』。2023年は20年に短編コンペ部門で受賞した藤田直哉監督による『瞼の転校生』など、同映画祭と関わりの深い監督たちの作品を上映してきた。いずれも創造性豊かな作品ばかりで、この映画祭からいかに新世代の才能が羽ばたいているかを実感できる。 今年のオープニング作品としてワールドプレミア上映が行われる『初級演技レッスン』は、時が止まったような廃工場で「初級演技レッスン」を開くアクティングコーチの蝶野穂積(毎熊克哉)が、即興演技を通して、父を亡くした子役俳優の一晟(岩田奏)や、一晟の学校の教師・千歌子(大西礼芳)の記憶に入り込み、彼らの人生を遡っていく物語。主演を務める毎熊は、2011年に短編部門奨励賞を受賞した『ケンとカズ』に出演していたほか、共演者の大西も2014年短編部門にノミネートされた『時ノカケラ』に参加しており、串田監督含め同映画祭が転機の一つとなった面々が一堂に会した作品と言える。 串田監督はオープニングを飾ることについて、「最高の花道を用意してもらった」としみじみ。というのも映画祭のルールでは、作品を応募できるのは長編制作が3本目までの監督となっており、「僕は今回のオープニング作品で監督3作目の長編作品となるので、SKIPシティでの上映は最後になります。映画祭を卒業する身としては、最高の舞台をご用意していただいたと考えているので、こちらも最高の作品で応えたいと思いました」と全身全霊を注いだ渾身作だ。 役者陣のアンサンブルに心を揺さぶられながら、意外な結末へと導かれるような作品だ。NHK大河ドラマ「光る君へ」の直秀役で、ワイルドかつ繊細な表情を見せて視聴者の心を掴むなど話題作への出演が続く毎熊は、黒ずくめの服装に身を包んだ蝶野のミステリアスな魅力を見事に体現。「一体、彼は何者なの?」と目が離せなくなること必至だ。そして一晟役に扮した岩田奏は、手探りの思春期をみずみずしく表現。千歌子を演じた大西は、凛とした佇まいのなかに寂しさをにじませ、すばらしい存在感を発揮している。3人の人生が交差していくことで、奇跡のような瞬間が訪れる本作。彼らの特別な時間を共有することで、エンタメの醍醐味までを味わえる感動作とオススメしたい。 「毎熊さん、大西さんからはすべてのシーンの撮影で刺激を受けていた」という串田監督は、「本作は、登場人物の過去が徐々に明らかになっていくミステリー要素のある作品に仕上がっているのですが、それは俳優の方々がキャラクターの心情を研ぎ澄まして、何気ない表情や仕草に反映させてくれたおかげ」と感謝しきり。映画祭の地元であるSKIPシティ内や川口市でも撮影を敢行しており、「撮影場所を貸してくださった方々の、地元の映画祭を盛り上げようという熱気」も印象に残っていると話す。「スタッフと共に川口市内をさまよいながら、撮影をしたいと感じた場所に飛び込みで交渉をするという方法でロケ地を決めて行ったのですが、皆様が『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭』のことをご存知で、撮影を快諾してくれました。ディープなロケ地の数々を楽しめる映画に仕上がっていると思います」と映画祭と地元が築いてきた絆が、大きな支えになった様子だ。 “卒業”を迎える串田監督だが、「この5年間で、SKIPシティを卒業した監督方がめざましい活躍をされていることは、とても刺激になっています」という。「今後は商業的な映画にも挑戦したいですし、議論を生むような作品も作りたいと考えています。理想は10年後、SKIPシティに審査員として帰ってくることです」と映画祭への愛着を口にしながら、さらなる飛躍を誓っていた。 ■今年のコンペも秀作ぞろい!SKIPシティで映画祭の醍醐味を体験 今年の国際コンペティション部門にも、世界各国の新鋭監督がつくり上げた力作が揃った。第二次世界大戦下のデンマークを舞台に難民問題を描く『Before It Ends(英題)』(アンダース・ウォルター監督/デンマーク)、母を亡くし、家計を支えようとする中学生を主人公とした『嬉々な生活』(谷口慈彦監督/日本)、子どもを望んだ2人の女性の愛の物語『子を生(な)すこと』(ジュディス・ボイト監督/ドイツ、ノルウェー)、ミシェル・ゴンドリー監督の創造の本質に迫るドキュメンタリー『ミシェル・ゴンドリー DO IT YOURSELF!』(フランソワ・ネメタ監督/フランス)、トルコ東部クルドの村に暮らす男性が、ある時始まった政治的混乱によって村を去るか、残るかの選択に迫られる『別れ』(ハサン・デミルタシュ監督/トルコ)など、国を追われる人々、社会的抑圧に抗う女性たちの物語や、経済的発展に戸惑う世代、極私的で親密な関係性を描いたものまで、映画によって世界の“いま”を感じられる作品がズラリと並ぶ。 ホラー、時代劇、ロードムービー、アニメーション、 ヒューマンドラマといった幅広いジャンルが集まった国内コンペティション部門では、若手映像クリエイターによる意欲作が日本初上映を迎える。ごみ処理施設焼却炉をを舞台に「奪われた」30年の姿を悪夢として織り上げる『朝の火』(広田智大監督)、風俗嬢のアヤとアスカの何気ない日常を描く『明日を夜に捨てて』(張蘇銘監督)、かけがえのない“わたし”と、大切な“あなた”に、幸福が訪れる物語『雨花蓮歌』(朴正一監督)、一人暮らしをすることになった女性が、引きこもりの兄と日の沈まない町で出会う様子を幻想的につづる『折にふれて』(村田陽奈監督)、家族の天体観測が不思議な宴と化していく『昨日の今日』(新谷寛行監督)、価値観のすれ違った親友同士による別離と挫折の物語『冬支度』(伊藤優気監督)など、バラエティに富んだ日本の才能に出会うチャンスとなる。 同映画祭のメイン会場となるのは、2003年にオープンした「学びと体験の街」として知られているSKIPシティ。最寄駅となるJR川口駅までは、東京駅から京浜東北線で約25分というアクセスのよさで、さらに映画祭期間中は川口駅から無料の直行バスが運行される。野外上映や映像制作ワークショップなど、親子で楽しめるイベントも満載だ。串田監督も「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭には、300席の劇場があって、観客がいて、観客や監督との交流があって、駅の近くにはいい飲み屋があって、上映後の活動を応援してくれるスタッフの方々がいます」とあらゆる魅力を口にし、「いまや世界中にたくさんの映画祭がありますが、SKIPシティは本物の映画祭を体験できる場所です!」と太鼓判。ぜひこの機会に、フレッシュな才能や映画の可能性を堪能してみてはいかがだろう。 「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」スクリーン上映は7月13日(土)から21日(日)の9日間。オンライン配信は7月20日(土)から24日(水)の5日間にわたって開催される。 文/成田おり枝