【解説】世界を揺さぶる金持ち……イギリス政治への影響は
クリス・メイソンBBC政治編集長 今の世界を誰よりも揺さぶっている米富豪イーロン・マスク氏が、イギリスを誰よりも揺さぶる野党政治家ナイジェル・ファラージ氏と会談した。 すごいニュースだ。まったくこの写真ときたら。 しかしこの二人の会談は、すごいニュースですごい写真だというだけではない。世界一の大富豪がイギリス政治にかかわるつもりだ(干渉するつもりだと言う人もいるだろう)と示す、これまでで一番はっきりした証拠だからだ。 会談は、米フロリダ州にあるドナルド・トランプ次期米大統領の私邸「マール・ア・ラーゴ」で行われた。その証拠となったこの写真については、「2人の億万長者とファラージ氏」という説明の仕方もある。 ファラージ氏は言うなれば「ものすごい金持ち」を連れて、それよりもっと「ものすごい金持ち」に会いに行ったことになる。 写真に一緒に写っているのは、ファラージ氏が立ち上げた政党「リフォームUK」の新しい財務責任者ニック・キャンディー氏だ。キャンディー氏は不動産開発で財を成した実業家で、かつては保守党に献金していた。ちなみに、ポップスターだったホリー・ヴァランス氏と結婚している。 しかし金持ちのレベルでいくと、マスク氏に比べてしまえばキャンディー氏は貧乏人のようなものだ。ビジネスの世界をロケットや電気自動車(EV)やソーシャルメディアで次々と揺さぶってきたのに続けて、政治の世界もマスク氏の影響力によって揺れ動いている。 そしてファラージ氏は、政治の世界を舞台に、世間の関心と好奇心をそそる物語を語ることにかけては名人だ。 今回のファラージ氏は、写真と思わせぶりな発言で人目を引いてみせた。ただし政治献金については、質問にまっすぐ答えたとは言い難い。 3人は確かに金の話をした。しかしいくらかはわからない。献金がいつか実際にあるのかも、あるとしてそれがいくらになるのかも、確かなことはわからない。しかし、次回の予告はあった。次回とは、来年1月20日に行われるトランプ氏の大統領就任式のことで、ファラージ氏も出席する予定だ。 フロリダ州からイギリスに戻ったファラージ氏は私に、マスク氏が「リフォームUK」に1億ドルも献金するなど、話を大げさに膨らませすぎだと言った。 しかし、それよりはるかに少ない額だとしても、それはかなりの大金で、「リフォームUK」の今後を決定的に左右し得る。 果たしてその献金が合法で、そして正当なものとみなされるかどうかが、問題だ。 与野党関係者からなる超党派の政治団体「公平な選挙のための全党議員グループ」は、そのような献金は正当とみなされないと主張し、法改正を求めている。 政治献金に関するイギリスの現在の法律は、イギリスで登記されている企業による政治献金を認めている。首相官邸は、これに関する規則を強化する方針を示している。 しかし、政治献金に関する法律の変更はどのようなものでも、政権与党が自分たちのためにやることだと言われがちだ。試合の途中でルールを変えるようなものだとみられる危険もある。 しかし私たちは、マスク氏ほど金持ちで、彼ほど巨大なメガホンを我が物にしていて、自分の国だろうが外国だろうが政治の舞台で彼ほど派手に我が物顔で立ち回りたがる人物を、かつて目にしたことがない。 それだけに、どれほどの影響力がどの場所から行使されるのか、どういう状態だとそれが影響力として大きすぎる、そして出発点が遠すぎるとみなされるのかについて、重大な問題が浮上しているのだ。 これは私たち一人ひとりにとっての思考実験でもある。政治への影響力は、どういうものだと大きすぎるのか。政治への影響力は、どこが出発点だと遠すぎるのか。これについてあなたの意見は、あなたがファラージ氏やマスク氏をどう思うかに左右されているのか。それとも、外国からの政治献金に関する自分の原則的な考えに、あなたの今の意見は左右されているのか。 ミリアム・ケイツ前下院議員(保守党)はソーシャルメディアに、「想像してみてください」と書いた。「ビル・ゲイツがキア・スターマーと並んで、労働を支持を約束している写真を見たのだと、そう思ってみてください。外国人によるイギリス政治への介入に、賛成か反対か、そのどちらかだけです。介入しようとする個別の億万長者への好き嫌いだけに、左右されてはなりません」と。 ファラージ氏は数週間後には再び大西洋を渡り、トランプ氏のホワイトハウス復帰を祝いに行く。 今回の訪問では、J・D・ヴァンス次期副大統領との写真撮影にも成功した。 「リフォームUK」の党首は、権力者とも大金持ちとも友達なのだ。 おかげでイギリスでは労働党も保守党もそれ以外の人も、ファラージ氏が政治的な脅威として力を増していると警戒し、懸念するようになっている。無理もないことだ。 (英語記事 Chris Mason: The challenge of disruptors with deep pockets )
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