この岩田剛典には期待しかない 『フォレスト』に刻むであろう、“進化”ではなく“真価”
俳優・岩田剛典の動向が気になって仕方がないーーそういった観客/視聴者はかなり多いのではないだろうか。 【写真】幾島楓(比嘉愛未)と一ノ瀬純(岩田剛典)の一見幸せそうな同棲生活 新シーズンに放送されるドラマの情報が出揃ったいま非常に楽しみなのが、それぞれの作品に出演する者たちが、新たにどのような顔を見せてくれるのかということ。俳優が新たな一面をのぞかせるとき、彼ら彼女らの活動を追ってきた私たちは興奮せずにはいられないものだ。今期の岩田は『フォレスト』(ABCテレビ・テレビ朝日系)で主演を務めることになっているのだが、ジャンルは“ラブサスペンス”らしい。これには俄然、期待値が上がるというものだろう。 本作は、岩田と比嘉愛未のダブル主演作。同棲して間もなく1年を迎える幾島楓(比嘉愛未)と一ノ瀬純(岩田剛典)は幸福な日々を送っているが、じつはお互いにある「嘘」をついている。という設定がこの物語のベースにあるのだという。これまでにも多くの作品に見られてきた設定だ。それはいったいどのような「嘘」で、そこからどのような物語が動き出していくのか。岩田がどんな新しい一面をのぞかせるのかは、ここに大きく影響されるだろう。 岩田が演じる純はクリーニング店の店主で、恋人の楓とは2年前に運命的な出会いを果たしたらしい。その性格は優しくて穏やか。柔らかな笑顔が印象的な人物だ。けれども楓との将来については何か思うところがあるようだ。 放送前の現時点で分かっているのは、楓が純についている嘘が「家族がいない」というものだということ。彼女の母は有名なホテルグループを経営する人物だが、すべてを思いどおりに動かそうとする冷酷な性格の持ち主で、楓は家族と縁を切り、「幾島楓」というひとりの女性として新しい人生を歩んできたのだ。ところがこの嘘が純にバレてしまい、ふたりの関係性には変化が生じていくこととなる。
岩田剛典の真価は、笑顔の下に“何か”隠しているキャラクターで発揮される
現在、TVerにて第1話の冒頭部分のみが先行公開されているのだが、これを観るかぎり、ふたりはどこにでもいる仲睦まじいカップルだ。が、その未来はかなりシリアスなものになっていくことが分かる。何せ、楓が包丁を手にし、腹部から血を流す純の姿が収められているからだ。しかし気になるのが、いくら大きな嘘だとはいえ、「家族はいない」という嘘が、そんな刃傷沙汰にまで発展するものだろうか。そしてここで気がつく。嘘をついているのは楓だけでなく、“お互い”であることに……。 よくある話かと思いきや、そうそうあるものではないようだ。おそらく、この物語がどんな道のりを進んでいくかのカギを握っているのは純のほうであり、本作がよりサスペンスフルなものになるのかどうかは岩田の表現にかかっている。これは演技者としての評価を高めつつある彼に期待せずにはいられない。 物語のキーパーソンであり、謎めいた人物を岩田が演じたものだと、映画ならば『死刑にいたる病』(2022年)、ドラマならば『アンチヒーロー』(2024年/TBS系)あたりの作品がすぐに思い浮かぶ。キャラクターのタイプは違えど、いずれもその心の内を容易には読ませてくれない役どころを演じていた。そうだ。岩田はこの手の役どころを演じるのが抜群に巧い。快活な笑みを浮かべるキャラクターも彼にはピッタリだが、その快活さや笑顔の下に“何か”を隠しているキャラクターを演じているときにこそ、俳優・岩田剛典の真価は発揮されるように思う。朝ドラ『虎に翼』(2024年度前期/NHK総合)で演じていた花岡悟役などがまさに好例だろう。 純は『フォレスト』の冒頭部分を観るかぎり、『死刑にいたる病』や『アンチヒーロー』で演じていた陰湿なキャラクターたちとは完全に違う。恋人に対して発する声音は甘く、表情も柔和だ。そのような人物からいったいどんな「嘘」が明らかとなり、この人間の「真実」が表れるのか。そのとき私たちは岩田剛典という演技者の新たな一面に出会うことができるはずである。本作に刻まれるのは彼の俳優としての進化ではなく、真価なのではないだろうか。
折田侑駿