ストップ・ザ・令和ロマン、逆風の「ABCお笑いグランプリ2024」で魅せた“王者”の強さ
ストップ・ザ・令和ロマン──。昨今のお笑い界にうっすらと浮かんでいた合言葉が明瞭に見えてきたかもしれない。7日に行われた「第45回ABCお笑いグランプリ2024」では令和ロマンにとってアウェーの空気感が漂っていた。 【関連写真】昨年開催の「ABCお笑いグランプリ2023」の様子 最大の理由は言うまでもなく、昨年の『M-1グランプリ2023』。漫才師にとって一番の名誉であり、芸人にとって世に出る最大の“近道”であるM-1グランプリ決勝に令和ロマンは出場し、わずか6年目で優勝を果たした。 そんな中で決断したのが今年のABCお笑いグランプリ出場。本大会は、芸歴10年目以下の芸人で争われる賞レースで、若手芸人の登竜門として機能しているだけに、漫才師の頂点に立った令和ロマンの出場は大きな波紋を呼んだ。実際、6月初旬に準決勝進出者が発表された時、史上初めてM-1王者が参戦していることが明らかとなり、メディアがこぞって報じたのは記憶に新しい。 それから令和ロマンは逆風の中を突き進んだ。つい数か月前には、彗星のごとく現れたニュースターとしてもてはやされながら、今大会での扱いはまるで“アンチヒーロー”。本人たちも「害悪」と表現し、審査員のダイアン・ユースケもCブロック開始前に「みんなが令和ロマンを倒しに来ているというか、この中で令和ロマンがどんなネタを見せてくれるのか凄い楽しみにしています」とハードルを上げた。 だからこそ、令和ロマンの立ち振る舞いは巧みだった。ファーストラウンド終了後にはボケの高比良くるまが「M-1グランプリ2023王者としてこの場に立たせてもらいましたが、実に面白い大会じゃないですか!」と見事な“ヒールボケ”を披露。出演前のVTRで王者が散々強調されていた影響もあるが、平場での最初のボケで令和ロマンはこの大会での自分たちの立ち位置を明確にした。2人が全員の敵となり、フースーヤを中心とした周囲の芸人から野次を飛ばされていたが、それさえも令和ロマンが場をコントロールしているかのように見えた。 もちろん、それだけで優勝できるほどABCお笑いグランプリは甘い大会ではない。とりわけ今年は粒ぞろいで、天才ピアニストやフースーヤといった関西のタイトルホルダーに加え、東京で令和ロマンと切磋琢磨する金魚番長やエバースといった実力者も出場者として名を連ねていた。それだけに追うものたちを蹴散らした“王者”の問答無用の強さに触れないわけにはいかない。 決勝で見せた2本のうちファーストステージのネタは昨年のM-1グランプリ準決勝ですでに行っており、今大会でも審査員からは「王者の風格が漂っているし、M-1グランプリ決勝のネタよりも面白い」と評価された。そして、2本目は今年から各ライブで試している、漫画『HUNTER×HUNTER』をオマージュにしているかのような松井ケムリの“実家ネタ”に。「違うテイストで勝負したかった」(くるま)というネタには絶妙なフィクションあるあるが詰め込まれ、かつ令和ロマンらしさも失うことなく、悲願のタイトルを2人にもたらした。 “悪者”を自認するくるまは「今回は主催者側や芸人からするとバッドエンドになってしまいましたね」と話したが、個人的には令和ロマンを倒すべき相手や悪役として見るのは違和感がある。彼らはただひたすらに笑いに従順で、ABCお笑いグランプリに出場を決めた理由は「準優勝、準優勝で出ないで終わるのもなと思った」というただそれだけ。2年連続で準優勝に終わり、悔しい思いをしたからこそ、優勝を決めた直後のくるまの「いざ優勝したらめちゃくちゃうれしいです!」という言葉には真実味があった。 このさき令和ロマンがどのような道を歩んでいくのか興味は尽きないが、ひとつ確かなことがあるとすれば、今年もM-1グランプリに出場するということ。くるまは「勝負が好きなんですよね。出られる大会がある限りは出たい」と前人未到の連覇への思いを語る。 誰が令和ロマンを止めることができるのか。今年も上半期を終えたところだが、年末までお笑い界の楽しみは尽きない。
まっつ