イチから分かるイラン大統領選
6月14日にイランで大統領選挙の投票が予定されています。14日はイスラム教国の休日の金曜日です。この日に18歳以上の男女の直接投票で大統領を選びます。過半数の票を獲得する候補がいない場合には、1週間後に上位の2人の候補者による決戦投票が行われます。 なおイランの大統領は、憲法で任期が4年2期と定められています。しかし連続してでなければ、3選も認められています。ちなみにアメリカの場合は、2期8年を務めた大統領は、間隔を空けても3選は許されていません。イランの場合はロシアのように、間隔さえ空ければ3選以上が可能です。 イランの大統領選挙に立候補が認められるには、12名からなる護憲評議会という組織による資格審査を通過する必要があります。資格には現体制への忠誠心が含まれているので、体制に批判的な人物は立候補すらできません。この評議会のメンバーの半数は最高指導者が、そして残りの半数は議会が指名します。
元大統領も門前払いで立候補できず
今回の選挙で護憲評議会は、立候補を届け出た686人のうち8人のみの候補を認定しました。1989年から97年にかけて大統領を務めたラフサンジャニやアフマドネジャド現大統領の側近などが、立候補の資格がないと門前払いにされました。 ラフサンジャニ元大統領に資格がないということは、その資格のない人物が、かつて8年間も大統領を務めたことになります。このラフサンジャニの失格は、ハメネイ最高指導者への権力の集中を印象づけました。イランの政治制度では最高指導者のポストに権限が集中し、有権者によって直接に選ばれる大統領や議会には政策の最終的な決定権はありません。
誰が勝っても大きな変化はない?
しかし民意の反映として、選挙には、それなりの意義がありました。アフマドネジャド現大統領が代表したのは、革命後に利権を独占した宗教界への批判でした。その前のハタミ大統領が反映していたのは、民主化を求める国民の声でした。そういう意味では、イランの大統領は、時期によっては野党の党首的な役割を果たしてきました。 しかし今回の選挙では最高指導者のハメネイの意向に添わない人物は、立候補すら許されませんでした。したがって立候補者8人のうちの誰が勝とうとも、イランの政策に大きな変化は起こらないだろうとの見方が広がっています。投票を前にして保守派と改革派の2人の候補者が立候補を取り消しました。それぞれの支持層の票が分裂するのを避けるためでした。 今回の選挙で残された注目点は投票率です。体制への国民の不満が伝えられる中で、どのくらいの有権者を動員できるのでしょうか。今のイスラム体制による国民の掌握度が問われています。 (放送大学教授・高橋和夫) --- 高橋和夫の国際政治ブログ