“生成AI活用”の上位10%は生産性が2倍近く向上するが「下位3分の1は効果なし」の理由。研究者1000人以上でMITが検証(生成AIクローズアップ)
1週間の気になる生成AI技術・研究をいくつかピックアップして解説する連載「生成AIウィークリー」から、特に興味深い技術や研究にスポットライトを当てる生成AIクローズアップ。 【この記事の他の写真を見る】 今回は、生成AIが科学的発見とイノベーションにどのような影響を与えるのかについて、研究者たちに生成AIツールを使わせて、その効果を検証した論文「Artificial Intelligence, Scientific Discovery, and Product Innovation」に注目します。 米国の大手企業の研究開発部門で実施されたこの実験は、1,018人の研究者を221チームに分け、2022年5月から開始されました。 導入された生成AIツールは、グラフニューラルネットワーク(GNN)と呼ばれる深層学習モデルで、既存の材料の構造と特性に基づいて学習を行います。この生成AIは、研究者が求める特定の性質を持つ新しい材料の「レシピ」を生成することができます。 (▲グラフニューラルネットワークを用いたAIモデル) 生成AIツールの訓練は3段階で行われました。まず既知の材料構造についての事前学習、次に特定の用途に向けた材料特性による微調整、そして最後にAIが生成した材料のテスト結果を用いた強化学習です。 実験の結果、AIを活用した研究者グループでは、新材料の発見が44%増加、特許申請が39%増加、新製品プロトタイプの開発が17%増加、研究開発の効率性が13-15%向上という成果が得られました。 また、AIによって発見された材料は、既存の材料と比べてより独創的な構造を持っていることが判明しました。 (▲材料発見、特許出願、新製品プロトタイプへのAIの影響) 一方で、研究者の作業内容も大きく変化しました。AIの導入前、研究者は作業時間の39%をアイデア生成に費やしていましたが、導入後はそれが16%に減少しました。代わりに、AIが生成した候補材料を評価する判断業務が23%から40%に増加し、実験作業も増加しました。 特に注目すべきは、生産性の高い上位10%の研究者の成果が81%増加した一方で、下位3分の1の科学者はほとんど恩恵を受けなかったという点です。この差は、AIでアイデアを出す能力ではなく、AIが提案する材料の評価能力(AIが提案する材料の良し悪しを見分ける判断能力)の違いに起因することが分かりました。 ただし、生産性の向上には代償も伴い、研究者の82%が仕事の満足度の低下を報告しました。主な理由として、スキルの未活用(73%)や、仕事の創造性の低下と反復作業の増加(53%)が挙げられています。
TechnoEdge 山下裕毅(Seamless)
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