大谷翔平の好調は初のプレーオフでも続くか? ロッキーズコーチがボンズとジャッジも直面した「難しさ」を指摘
【誰が活躍するかはやってみないとわからない】 2024年の大谷はフルタイムのDH(指名打者)であるがゆえ、圧倒的な打撃成績を残しながらも、ナ・リーグのMVP投票では他の選手に票が入るのではないかと目された時期もあった。それがシーズン終盤、最も大事な時期に大爆発したことで、"MVP論争"はもう、話題にも上がらなくなった。ミューレンも「今季は満票ではないかもしれない」と述べながらも、大谷MVPは当確と太鼓判を推した。 「メジャーの歴史でも、誰も見たことがないような実績を残したのだから、守備につかない選手がMVPに値しないという考え方には同意しない。1年に30~40試合しか登板しない先発投手がMVPに選ばれることもあるだろ? 翔平はクレイジーな数字を残しているのだから、その貢献度は評価されて然るべきだ」 今後、残る注目ポイントは、大谷がプレーオフでどんなプレーをするかに絞られる。メジャーリーグ7年目にして自身初のポストシーズン。投手陣に故障者続出のドジャースがナ・リーグ内でも本命視されるかは微妙だが、上位進出には大谷の活躍は必須に違いない。去年のWBC、今季終盤の勝負強さを見る限り、このまま爆発し続けても、もう誰も驚くまい。 もっとも、大谷に関して絶賛を繰り返したミューレン打撃コーチは、ポストシーズンでの活躍については少し慎重な姿勢を見せる。実力そのものを疑っているのではない。背景に、"プレーオフは別物"という考えがある。 「私はニューヨーク・ヤンキースのマイナー組織で育ったが、当時のヤンキースのベストプレーヤーはデイブ・ウィンフィールドだった。ウィンフィールドは凄い打者だったが、ポストシーズンでは打てなかった。バリー・ボンズはキャリアの終盤までプレーオフで最高のプレーはできなかった。アーロン・ジャッジ(ヤンキース)も、まだポストシーズンでは大暴れしていない。つまりプレーオフはまったく別の舞台で、そこで誰が活躍できるかはやってみなければわからないということ。 翔平への期待度は大きく、初めてのポストシーズンが思い出深いものになることをみんなが望んでいる。そんななか、リラックスできるかどうかが鍵になるのだろう」 ウィンフィールドはプレーオフ通算打率.208、2本塁打に過ぎず、ヤンキースの主砲として臨んだ1981年のワールドシリーズでは22打数1安打でドジャースに敗れる一因となってしまった。ボンズは2002年のプレーオフでの打率.356、8本塁打という鬼神の働きが目立つが、それ以外の年は打率.198(合計106打数21安打)、1本塁打と確かに打てていない。現代の最強打者であるジャッジもポストシーズン通算打率は.211だ。 これらのスーパースターたちの苦戦は、必然的に投手レベルが上がり、緊張感が極限に高まるプレーオフの難しさを物語る。逆に言えば、ここで大谷がどんなプレーをしてくれるかは余計に興味深い。そこでの活躍を楽しみにしているのは、大谷の成長過程を目にし、日本球界との関係も深いミューレンも同じだ。 「日本人コミュニティをはじめ、多くの人たちが彼の成功を期待している。そのなかで、みんなの思いに応えようなどと考えすぎるべきではない。自身にプレッシャーをかけすぎず、普段通りのプレーをしてくれることを願っているよ」 "The Year of Ohtani"を締めくくるべく、最もエキサイティングな季節がもうすぐ幕を開ける。まるでフィクションのような大谷の大活躍は、継続するのか。"球界のユニコーン"は、もちろんリーグ全体でも最大の注目選手であり、背番号17の一挙一動に世界中からの視線が注がれ続けることは間違いない。
杉浦大介⚫︎取材・文 text by Sugiura Daisuke