土地の所有権を移転させるだけで″1億円”の借金をチャラに?複雑怪奇な『地面師詐欺事件』の発端となった「不可解な取引」
借金返済と見せかけの所有権移転
「椙浦から聞いた話では、この取引にかかわる前、もともとD社の椙浦はA社から借金をしていたといいます。金額は1億ほど。いわば借金を返すため、椙浦は高橋礼子さんの土地の所有権をA社に移し、そこで資金づくりをした。これが事件の始まり。このときになりすまし役を手配したのが秋葉紘子だと見られています」 土地は、大田区大森南のワンルームマンションに住んだことになっているニセ高橋礼子からA社に所有権が移る。なぜその所有権移転が1億円の借金返済になるのか。 「あくまで名義だけの所有権変更ですが、A社は所有者として土地を担保に金融機関から融資を受けられる。椙浦は融資金で自分自身の借金を返した。そのあとの金融機関への返済は椙浦がおこなうというわけです」 実際、登記簿によれば、新橋にある高橋礼子が所有してきた4階建ての建物の底地を担保にA社は15年4月28日、1億5000万円の融資枠で金融機関から相当の金を借り入れている。4月28日はA社に所有権が移ったその日である。 ちなみに登記簿からすると、それからひと月半のちの6月9日、A社の所有権が抹消されている。それは何を意味するのか。初村の解説はこうだ。 「つまりA社はここで一連の土地取引から切り離されて関係ないことになっているわけです。椙浦はA社への借金返済のために一時的にA社に所有権を移しただけでしょうから、A社は本当に何も知らないかもしれません」 実のところ6月9日、A社の所有権が抹消されたと同時に、融資枠1億5000万円の根抵当権も消えている。つまり借金返済が完了したということだ。 『「取り調べ」はできても「摘発」はできない!?いまだ未摘発の『地面師詐欺事件』の犯人たちが使った「カラクリ」』へ続く
森 功(ジャーナリスト)