華麗な生活を謳歌した経営者、突然死…生活拠点の「1億円超の高級タワマン」が剛速球で投げ売りされた、戦慄の事情【弁護士も蒼白】
派手な生活ぶりの経営者が亡くなった直後、親族が必死の形相で相続放棄に奔走――。相続の現場では、こういったケースは実に多く遭遇します。人がうらやむ華麗な生活をしていたはずが、相続人が血相を変えて相続放棄に走るのには、どんな背景があるのでしょうか? そして、相続放棄された後の資産には、どんな問題が残るのでしょうか。不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。 【早見表】年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
派手な暮らしぶりでも…「借金まみれの経営者」は一般的
派手な暮らしをしているように見える経営者の方のなかには、かなりの高確率で、事業のための多額の借金を抱えている方がいます。 事業を行っている場合、運転資金や設備投資のために借金をするのは一般的なことです。赤字企業でなくても、借金をして事業規模の拡大を加速するケースはしばしばあります。 借金返済や事業の拡大が計画通りに進んでいればなにも問題ないのですが、経営者の方に万一の事態が生じると、大変なことになります。 とはいえ、万一経営者が突然亡くなっても、団体生命信用保険に加入し、借金返済を免れる特約をつけておけば問題ありません。しかし、このような特約がつけられる借入ばかりではないため、万全を期すならば、借金を返済できるように生命保険にも加入しておくべきなのです。 実際のところ、そこまで考えて周到に準備している経営者はまれです。そのため、生前は人目を引く派手な生活ぶりだったのに、亡くなったとたん状況が一転し、相続人たちは多額の借金から逃れるため、一斉に相続放棄の手続きに走る…という事態が生じるのです。 「あんなにすごい高級車を乗り回していたのに?」 「超一等地のタワマンに住んでいたのに?」 相続人からしたら「あの人が亡くなったことで、ひょっとしたら自分にも遺産が…」と、少なからぬ期待を抱いていたところ、まさかの大借金発覚となれば、大慌てです。
相続放棄された場合、法律上「室内の荷物の処分」が不可能に
以前、筆者がある不動産会社から相談を受けた事例です。 ある経営者が急死しました。この方は、超高級タワマンを借り、そこに暮らしていました。そして相続人たちは、上述の説明のように相続放棄することになりました。 ご存じの方もいらっしゃると思いますが、相続放棄する場合は、相続財産の一部であっても、取得したり売却したりすること(「処分行為」といいます)は禁じられています。都合のよい財産だけ取得することは許されないのです。 しかしその結果、相続人は賃借人の荷物を片付けることをせず、経営者が暮らしていた部屋を放置しました。賃貸人のオーナーは、部屋いっぱいに残った荷物を見て頭を抱えてしまいました。 筆者は、この賃借人の残した荷物、すなわち「残置物」の処分について相談を受けたのです。 一昔前は、このあたりの扱いが厳密でなく、オーナーによる荷物の処分も見過ごされることがままあったようです。 しかし現在は、このような「自力救済行為」はご法度です。貸した部屋にオーナーが勝手に入れば住居侵入罪に該当しますし、勝手に賃借人の荷物を捨れば、器物損壊罪等に問われます。このことから、賃借人の方が亡くなり、相続放棄された場合、部屋の中の荷物を勝手に捨てることが、法律上できなくなってしまうのです。