小林薫が『虎に翼』に与えるこの上ない説得力 “真の役者”が司るアンサンブル
『深夜食堂』以降の小林薫は、安心感や説得力がさらにアップ
それでも、少なくとも『カーネーション』の前後にまたぐようにしてシリーズ化や映画化もされた『深夜食堂』という新たな代表作を得て以降、その風格、ないしは視聴者に与える安心感や説得力はこれまで以上に高まっていると見える。それこそ筆者が初めて小林という俳優を認識した90年代の『ナニワ金融道』(フジテレビ系)シリーズの時点から貫禄や風格は確かにあったし、その直後の滝田洋二郎の映画『秘密』における頼りなさげな父親役も然り、役者としての裾野は元来非常に広い役者であることはいうまでもない。 Netflixオリジナルドラマ『深夜食堂 -Tokyo Stories-』予告編 『Dr.コトー診療所』でも『舟を編む』でも、最近の『風間公親-教場0-』(フジテレビ系)や北野武の『血』でも、どのようなベクトルに向いた役柄であろうと、そこに常に穏やかな迫力を介在させ、もはや画面に映るだけで作品が一気に締まる。そして『深夜食堂』が店にやってくる客たちのドラマで成立していたように、小林が締めた画面のなかで演技をする他の役者陣にも最大限のパフォーマンスを引き出させる。この稀少な“真の役者”が司るアンサンブルをじっくり楽しむことこそ、『虎に翼』の大きな見どころであろう。 第2週で無事に明律に入学した寅子。穂高は新聞社の取材を受けながら、寅子に対して「ご婦人方が権利を得て、新しい未来を切り開くためにぜひ法律を味方につけてほしい」という言葉をかける。第1週の第1話、戦後に寅子が日本国憲法第14条を読むシーンから始まったこのドラマ。三淵嘉子の史実をたどるのであれば、寅子が判事となる前年に恩師たる穂高は亡くなることになり、その後1958年の「原爆裁判」へとたどり着くことになる。優れた役者たちのアンサンブルという朝ドラの妙味と、我々が知っておくべき歴史を同時に味わえる『虎に翼』は、久々に見応えのある朝ドラとなってくれそうだ。
久保田和馬