センバツ準Vの近江、急な出場の舞台裏 京都国際の思いも胸に健闘
第94回選抜高校野球大会は最終日の31日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で決勝があり、近江(滋賀)は大阪桐蔭との近畿勢対決で敗れたが、滋賀勢として初の準優勝を果たした。補欠校から繰り上げ出場したチームの準優勝は史上初めて。 【全試合あります! 球児の熱い戦いを号外で】 ◇ 近江の出場が決まったのは開幕予定前日の17日で、万全の準備をする時間はなかった。だが、選手たちは新型コロナウイルスのPCR検査で関係者が陽性判定を受けて辞退した京都国際の選手の思いも背負い、甲子園の舞台に立った。 雨天のため開幕は1日順延したが、20日の初戦まではドタバタだった。出場校は大会期間中、甲子園近くの宿舎が割り当てられるが、近江は手配が間に合わず、初戦は学校のある滋賀県彦根市からバスで午前6時半に出発。山田陽翔(はると)主将(3年)ら4人は名神高速道路の草津パーキングエリアで合流し、甲子園に向かった。2021年夏の甲子園で4強入りした時もレギュラーだった津田基(3年)は「去年の夏は宿舎入りして、みんなでご飯を食べたが、今回は(初戦の)試合前日に家族でご飯。本当に明日、甲子園かどうか実感がなく、朝起きた時も夢じゃないかと疑う感じだった」。アルプス席で使用するメガホンも昨夏の甲子園出場時のものを使うなど、応援団の準備も慌ただしかった。 選考から一度漏れた影響も少なからずあった。津田は「(補欠校となり)春の大会を見据えて練習してきたが、悔しさもあり、モチベーションが上がらないままの練習だった」と率直に明かす。冬場は例年以上に積雪量が多く、打撃や守備の連係プレーなどの実戦練習も十分に積めなかった。それでも、多賀章仁監督(62)はチームを鼓舞し続けた。「とにかく諦めずに準備しよう。頑張って練習しようと山田に声をかけ、山田から仲間に声をかけてやってきた」。落ち込んだ心をつなぎ留めて練習に励んだことが、代替出場での快進撃を支えた。 初戦があった20日。多賀監督は京都国際の小牧憲継監督(38)から連絡をもらったことを選手に明かし、語りかけた。「(20年夏の甲子園が地方大会も含めてコロナ禍で中止となり)昨年のチームがベスト4に行けたのは、先輩の分までと2年分の思いを持ったから。誰かのためにという思いが力を与えてくれる。甲子園で試合できることに感謝するぞ」。4強進出後は山田主将に、親交のある京都国際のエース・森下瑠大投手(3年)から「おめでとう」のメッセージも届き、山田主将は「改めて野球に感謝できる大会になっている」と語った。 「このチームは(特別な運命を)持っていると思った」と多賀監督。異例の準備を経て、京都国際の無念の気持ちも背負った近江。決勝こそ力尽きたが、記録にも記憶にも残る準優勝だった。【藤田健志】