「私の人生はお母さんに食べられてしまう」里親のもとから実母へ引き取られた少女は、理想とかけ離れた現実に愕然
子どもは親から一身に愛情を注がれて育つもの。そんな「理想の家族」の一方で、親から人生を搾取され、苦しみながら育つ子どももいます。そんなふうに育った過去の実体験を語る人々も増えてきて、「毒親」という言葉もよく聞かれるようになりました。 【マンガを読む】『私の人生を食べる母』を最初から読む 米田幸代(まいたさちよ)さんは、生まれた直後から実の親のもとを離れ、里親に引き取られて育てられました。幸代さんは里親からの愛情をうけて育った後、小学4年生のときから実の母親といっしょに暮らし始めましたが、それはずっと夢見ていた理想とはかけ離れた生活だったそうです。 「このままでは私の人生はお母さんに食べられてしまう」と感じたという幸代さんの実体験をもとにしたコミックエッセイ『私の人生を食べる母』が、いま注目を集めています。 ■『私の人生を食べる母』あらすじ 産まれてすぐ、祖父母ほど年の離れた夫婦に里子として引き取られた少女・サチヨ。夫婦は深い愛情をもって育ててくれたけれど、家族のなかで自分ひとりだけ苗字が違うこともあり、彼女はずっと疎外感を抱えていました。 そんな小学4年生のある日、実の母親からサチヨと一緒に暮らしたいと里親のもとに連絡が入りました。「やっと本当の居場所に行ける」「どんな人かな」「私に会ったら喜んでくれるかな」とサチヨは母親に会える日を楽しみにします。 しかし、空き家のようなボロボロのアパートで実母と暮らし始めると、その生活は思い描いていたものとはかけ離れていました。喜んでほしくて家事を頑張ったものの、理不尽に怒鳴られて虐げられる日々。母親の手伝いに追われ、銭湯にもろくに行けない日が続きました。 ある日、困窮した状況を見かねたアパートのとなりのおばさんが、「困ったことがあったら使うんだよ」とサチヨにそっとお金を握らせます。サチヨはそのお金で母を喜ばせたいとプレゼントを買ってくるのでした。プレゼントのお金の出どころを知った母親は、さらにお隣さんにお金を借りてくるよう命令します。しかし、今度はお隣さんには借金を断られてしまいました。 帰宅すると、激怒した母親に「他にもご近所とか同級生のママとかいくらでも借りられそうなところはあるでしょ!?」「サチヨが助けてくれなきゃお母さん死んじゃうんだ」と家を追い出され、サチヨは泣きながらあちこちで頭を下げて回るのでした… 「このままでは私の人生はお母さんに食べられてしまう」 そう感じた幸代さんは、里親のところに帰りたいと思うようになっていました…。 この作品について、幸代さんにお話を伺いました。 ■母親に言われたことをこなそうと一生懸命に ──自分が里子であることについてはいつ知りましたか?また、当時里親さんからはどのような説明を受けていましたか? 幸代さん:私の記憶では、最初からわかっていました。説明は「お母さんは今は一緒にいないけど、サチヨのお母さんはいるよ」と言われていました。 ──本当のお母さんから一緒に暮らそうという提案があった際、どのような気持ちでしたか? 幸代さん:会った事がなかったので、不安な気持ちもありましたが、その時はとても嬉しかったです。 ──本当のお母さんと会った時はどのような気持ちでしたか? 幸代さん:この人が私のお母さんなんだと、どこか現実とは思えない感覚でした。でも会えた喜びは大きかったです。 ──再会してからお母さんと交わした印象的な会話があれば教えてください。 幸代さん:一番最初に話した時は、母が色々と大変だったという話をしていて、それが印象的でした。 ──お母さんと暮らすようになってから生活に大きな変化が訪れましたが、理想と現実のギャップにどう向き合いましたか? 幸代さん:当時は無理をしていたとおもいます。母と暮らしだしてから学校も休みがちになり、成績も悪くなりましたが、母に言われた事を一生懸命こなそうと頑張っていました。 ──愛情深く育ててくれた里親さんがいたからこそ、実のお母さんとの生活は落差が大きかったと思います。実体験を通じて米田さんが感じた、里親制度のメリットや課題などがあれば教えてください。 幸代さん:里親制度のメリットは、家族のような密な関わりがもてる事や、将来の家庭像が描きやすい事だと思います。 一方、私の経験から課題だと感じた事は、苗字が違う事や他に同じような境遇の子が周りにいないと、孤独感を感じる可能性がある事だと思います。赤ちゃんの頃から、安心出来る人と繋がり、安心できる居場所が持てる経験はとても大切です。その経験がないまま育つと、生きづらさに繋がりやすくなります。 ──里親制度の場合は、施設と違って周囲に同じような境遇の子がいないのですね。 幸代さん:例えばファミリーホームや養護施設であれば、理由は様々ですが、家族と一緒に暮らせていない子ども達の集まりなので、苗字が違う事に囚われにくく、仲間意識が持てれば孤独感が大きく育つことはないかもしれません。 里子は経験を共有する機会が少ないと思うので、子どもの頃から里子同士の交流の機会があると、救われる子もいると思います。子どもが生きやすくなる為に1番大切な事は、周りの理解ある環境だと思います。子どもに隠すのではなく理解出来るようにわかりやすく説明し、子どもを中心に考えてあげる事がとても大切だと考えています。 * * * 「本当に困ったことがあったら、学校の先生に『施設に入りたい』と言うんだよ」里親のもとを離れるときにそう言われていた幸代さんは、14歳のときに実母のもとを離れ施設に入る決断をします。そして現在は里子経験者として、里親制度について講演活動をしています。里親と過ごした幼い頃に注いでもらった愛情があるからこそ、自分の人生を切り開く大きな決断ができたのかもしれません。 取材=ツルムラサキ/文=レタスユキ