「女に政はできん!」よしながふみ『大奥』のセリフに既視感がある理由
ジャーナリストの浜田敬子さんは、よしながふみさん原作のNHKドラマ『大奥』を2024年に見て大いにハマったという。その理由をこのように綴っている。 【当時のイラスト】ペリーの「黒船来航」1858年の日本 「単に男女が逆転したことによる爽快感だけではない。登場人物が発するセリフの一つひとつから発せられるメッセージが、今の社会にこそ必要とされるものだ」 『大奥』の舞台は江戸時代。赤面疱瘡という若い男性だけがかかるという謎の疫病によって極端に男性の数が減ったことによって男女の役割が逆転するという設定だ。歴代将軍も歴史上有名な人物も全て女性になる。 それがなぜ今の社会にこそ必要とされると感じたのか。それを綴る前編では、今なお殺戮が続くロシアやイスラエルにも視野を広げ、「フェミニスト外交」という、通常外交から外されやすい女性や障害者などのグループが加わる重要性を伝えた。 後編ではさらに日本の政治に目を向けていく。
『大奥』「幕末編」の“同性婚”
よしなが「大奥」はシスターフッドの物語でもある。特に印象的なのは、ドラマ終盤「幕末編」に登場する13代将軍・家定と阿部正弘、14代将軍・家茂と和宮の関係だ。 家定はその美貌ゆえ父親から性的虐待をされている設定で、2度迎えた正室が父親によって毒殺されたばかりか自身も服毒して以来病気がちとなる。その父親の虐待から救ったのが、後の老中、阿倍正弘だった。2人はカステラなど菓子作りを通して友情を深めていくのだが、その中で誰にも言えない父親からの性的虐待の苦しみを正弘は理解していく。 幕末になると、アメリカから黒船が襲来し、大老・井伊直弼(男性)が勅許を得ずに日米修好通商条約を結んだことから、幕府と朝廷の関係は悪化する。関係修復を目指した「公武合体」が、幕府14代将軍の家茂と天皇の皇女、和宮の政略結婚だった。だが、実際に相手としてやってきたのは、和宮の姉だったという設定。今でいう同性婚であり、養子まで迎えるのだ。 最初はひねくれて心を許さなかった和宮に、家茂はカステラを贈る。まもなく2人でカステラを食べながらさまざまなことを話すようになり、心から信頼し合うようになる。だが幕府の外では尊王攘夷の動きが活発化、家茂は上洛し、長く関西に滞在することになり、2人は「別居婚」を強いられる。男たちの政治的な思惑の中で翻弄される2人。和宮が大阪城で命を落とすことになる家茂を想って泣くシーンは、男たちの権力闘争によって、女たちが治めてきた260年も続いた安寧の世が終わることを嘆いているようにも見える。