「脳灼かれる」見た人が叫ぶアイドルアニメ映画『トラペジウム』の話題が尽きないワケ
性格の悪い主人公を切り捨てられない理由がある
元乃木坂46の高山一実さんが執筆した、「アイドル」を題材にした同題小説をアニメ映画した『トラペジウム』は、連日X(旧Twitter)のトレンドに入っていました。5月10日の公開から4週目となった今なお、作品を語る人たちの熱は冷めておらず、多数のリピーターも生んでいます。 【画像】え…っ? 「久しぶりの2ショットもカワイイ」これが『トラペジウム』原作者と一緒に出演していた元乃木坂メンバーです(4枚) その理由の筆頭は、主人公の女子高生「東(あずま)ゆう」の「性格が悪い」こと、いや、それ以上の複雑な魅力が彼女にあるからでしょう。 劇中では、東ゆうは絶対にアイドルになるために(それ以外の理由でも)かわいい女の子たちに声をかけ、4人組のグループ「東西南北」でデビューして、あっという間に知名度を上げます。「目的のために誰かを利用してのし上がっていく」過程を取り出せば、アニメ「コードギアス」シリーズや実写映画『ナイトクローラー』も思い出すほどです。 その東ゆうの夢は、「狂気」として現出します。「そんなのおかしいよ!」「こんな素敵な職業ないよ!」といったセリフとガンギマリの目のコンボは、下手なホラーよりも恐ろしいほどでした。 それでも、東ゆうを「クズ」や「サイコパス」といった、短絡的なくくりでおさめることはできません。「初対面の女の子には敬語で話しかけるし、ちゃんと謝れるし、良い子じゃないか!」と感心する場面もあれば、「お前そういうとこだぞ」とやっぱりイヤな面を指摘したくもなりますし、「挫折を経験した上でガバガバな計画をたてているのが愛おしい」と思えもするからです。 夢を狂気として現出させる様も、「自分の『好き』ばかりを肯定して他のことが見えていない」という、誰にでも(特にオタク気質な人にとっては)身に覚えがある過ちでしょう。そして、東ゆうに囚われた人たちが、「脳を灼かれる」「こんな素敵な映画ないよ!」「囚ペジウム」などと声をあげている、というわけです。 ほかにも、個性的なアイドルグループ「東西南北」の女の子それぞれの内面や、彼女らが東ゆうが好きだと分かる心理描写、「頸動脈をおさえる仕草」「風見鶏やコンパス」「電車から降りる/乗る」といった言葉に頼らない演出、「エピソード0」でもあるオープニング映像など、何度見ても新しい発見がある、考察がはかどる作り込みもされています。 『トラペジウム』は「ささった」人には毎日のように語りたくなり、強烈なインパクトのある劇薬映画かと思いきや、噛むほどに味が出る「スルメ映画」でもあります。気に入った方は、Xの「#細かすぎて伝わらないトラペジウムの好きなシーン(ネタバレ注意)」のハッシュタグの投稿を見るなどして、さらに沼にハマってみてください。
ヒナタカ