平均余命は15か月…あらゆるがんの中で最も予後が悪い「膠芽腫」に挑む新しい治療法で、はたしてがんは征服されるのか【下山進×堀江貴文】
『アルツハイマー征服』で人類とアルツハイマー病の117年におよぶ戦いを描いたノンフィクション作家の下山進氏が、新刊『がん征服』を上梓した。今度のテーマは「膠芽腫(こうがしゅ)」。あらゆるがんの中で最も予後が悪いと言われる悪性脳腫瘍の治療に挑む医者・研究者たちの苦闘を通して、がんと人間の戦いのドラマを描き出します。対談相手は、予防医療普及協会の理事を務め、医療ベンチャーにもかかわる堀江貴文氏。果たしてがんは征服されるのか? BNCT、光免疫、ウイルスなど、がん治療の最前線に迫ります。 【写真】下山進氏と堀江貴文氏の対談の様子と実際の治療現場
ものすごい勢いで増殖
下山堀江さんとは、『アルツハイマー征服』が出たときに番組に呼んでくれたのがきっかけですね。 堀江はい。たまたま読んだんですよ。 下山noteにすぐ書いてくださって嬉しかったです。堀江さんをきっかけに読んでくださった方も多いんです。 今回の本は、膠芽腫を主人公にしました。出版社からの依頼は、手術、抗がん剤、放射線という標準療法以降の治療法の開発史をやってくれというものでした。しかし、調べてみてわかったのですが、がんというのは部位によって全然違う。甲状腺がん、肺がん、それぞれに専門家がいて、承認されている薬も違います。これは大変だなと。 そこで膠芽腫という脳腫瘍のグレード4に焦点を当てました。膠芽腫の患者の脳をMRI画像で見ると、白い環が見えます。白い部分が腫瘍で、内側の黒い部分は壊死した脳細胞です。ある日突然これが現れて、ものすごい勢いで増殖する。平均余命が15か月という、すごく難しいがんなのですが、だからこそ、新しい治療法が治験を組みやすい。標準療法以外の療法をやってみたいという人が入ってくるからです。これを主人公にすれば、標準療法以降の治療法が1本にこうまとまっていくなという風に考えたんです。 実は膠芽腫には様々な新しい治療法が挑んでるんですよ。免疫チェックポイント阻害剤とか、分子標的薬、血管新生阻害体とかですね。でも膠芽腫はことごとく退けてしまった。そこで期待がかかるのが、本書で取り上げた3つの療法です。 下山まずは原子炉・加速器を使うBNCTというホウ素中性子捕捉療法。大阪医科大学の医者で、元々京大出身の宮武伸一先生が膠芽腫については先頭に立ってやっています。 それと遺伝子改変ウイルスを用いるウイルス療法。これは東京大学医科学研究所の藤堂具紀先生。 そして光免疫療法。京大出身で、今はワシントンにあるアメリカ国立衛生研究所(NIH、National Institute of Health)の研究者である小林久隆先生。 この3人の研究者・医者が、それぞれ重なり合いながら、新療法に挑むという話です。私は『続夕陽のガンマン』という映画が大好きなのですが、原題はザ・グッド、ザ・バット、アンド、ジ・アグリー。良いやつ、悪いやつ、ずるいやつ。本書を書いている間、このタイトルが頭に浮かびました。どの研究者がどれだというわけではなく、それぞれ個性の立った 研究者なので。 堀江一通り読ませていただいたんです。『アルツハイマー征服』を読んでいたので、ある程度期待しながら読んだんですけど、非常に勉強になりました。 僕は色んな医療系の事業を共同でやっているのですが、そこの医者なんかも感心してました。彼らも膠芽腫については専門ではないので、改めて勉強したら、膠芽腫の「膠(こう)」って、「膠(にかわ)」のことだったんですね、みたいな話になったりとかして。膠みたいにベタベタにくっついちゃってるから、なかなか剥がせないんですねって。医者って専門外のこと意外と知らないですよ。