あなたの知らない札幌《本郷彫刻美術館》後編 顔のない母親像に秘めた思い
【北海道・札幌】人口200万人の声も聞こえる北の大都市・札幌。その札幌には、多くの観光地や名物施設があります。とはいえ、札幌市民ですらそれらのすべてを知っているわけではありません。そこで不定期連載として「あなたの知らない札幌」と題した企画をスタート。第4回後編は、芸術性豊かな本郷新記念札幌彫刻美術館(札幌市中央区)の秘密を同美術館の加藤正浩さんに聞きました。(構成/橋場了吾)
建物はもちろん周囲にも芸術的な工夫が
本郷新記念札幌彫刻美術館は、全国的にも珍しい二棟建ての美術館です。もともと本郷のアトリエだった「記念館」と、本郷亡き後盟友だった建築家・田上義也が設計した「新館」が道路を挟んで建っています。 その「新館」ですが、真横から見るとシンメトリーになっているのがわかります。入口に直進してくる道は建物を斜めから見ることになるので、なかなか気づかないポイントかと思います。そして、外壁の白いタイルは一部分だけが縦に並んでいます。これは、田上が本郷の「彫る」「刻む」という彫刻家のイメージを託したもので、二人の友情の深さを物語っています。 また、「新館」は真上から見ると「H」型になっています。これは職員たちで「田上が本郷(Hongo)を思い「H」型にしたのでは?」と話していることなのですが、事実だったとすれば田上が建築家として彫刻家の本郷に、最大の敬意を示したのではと思います。 そして、美術館の周囲にも注目してください。実は、札幌中心部から美術館に向かってくる坂道にも本郷の作品が展示してあります。「奏でる乙女」という彫刻なのですが、この像が見えると間もなく美術館に到着します。その美術館までの間に、テレビ塔と本郷の代表作「泉の像」が刻まれたマンホールがあります。また「へら」がモチーフの街路灯と、「粘土かきべら」がモチーフのレンガ舗装があり、美術館の周囲を「彫刻の道」と呼んでいます。
普段は公開していない「母子愛」がテーマのコレクションを開催
今年は当美術館が開館35周年ということもあり、7月3日まで、本郷新の彫刻のテーマであった「母子愛」にちなんで「お母さん大好き!」というコレクション展を行っています。この展示では、普段は公開していない彫刻も含め全27作品を展示、さまざまな「母と子の愛」にちなんだ彫刻を楽しめます。 いくつかの彫刻を見ていくと気づくのですが、母親と男の子がじゃれている作品を多く目にします。これは、本郷の息子の奥さんとその息子(本郷の孫)の様子をモチーフにしているからだそうで、「母子愛」と同時に「家族愛」も感じさせる作品展示となっています。 その中で、顔のない母親の像もあります。これは「母親の顔を描くと個性が出過ぎて、広大無辺な愛を表現できない」という理由です。母親の「無償の愛」を描くために、あえて母親な顔を精密にしなかったというわけです。 札幌はこれから新緑の季節を迎えます。当美術館は高台にありますので、新緑の中、札幌市内を一望できるシチュエーションでもあります。閑静な住宅街の中にある美術館で、「平和」と「母子愛」を描いた本郷新の作品を楽しんでください。