NHK「うたコン」が“3つの生”にこだわる理由 チーフPが語る舞台裏の苦労&忘れられない放送回
うたコンの舞台装置で紅白歌合戦へ布石を打つ
NHKの『うたコン』には、50代以上のシニア層を中心としつつ、幅広い世代の視聴者層に親しまれているという特長がある。世代やジャンルを超えたアーティスト同士のコラボレーションは、他の音楽番組ではなかなか見られない魅力といえるだろう。「なかなか出会えないような楽曲に出会える場でありたい」と語るチーフプロデューサーの篠原伸介氏に、もうひとつの番組の特長である「生放送、生演奏、生歌唱」について聞いた。 【画像】10月29日の放送も超豪華なメンツが揃っている ほか (前後編の後編) ***
『うたコン』は、当選すれば会場で生放送を観覧することができる。多彩なジャンルの出演者の生歌が聴けるのも、ほかの音楽番組とは一線を画している。 「実際に観覧に来られると、歌の上手さや生の演奏に圧倒される方が多い。テレビの音とは違う、生演奏ならではのライブを体感していただけています。生放送を続けるのは、大規模な編成のバンドの生演奏の音楽を生放送でミックスする、スキルの伝承という意味でも重要なことだと考えています。楽器それぞれのチャンネルが何十もあるので、生放送ならではのリスクもある。でも生演奏でしか出せないグルーヴもあるし、アーティストの方にとっても、後ろから音圧を感じながら歌うと歌唱パフォーマンスも変わってくるのではないでしょうか」 NHKホールからの生放送という点では『紅白歌合戦』にも通じる部分がある。 「うたコンと紅白は演出スタッフが重なっています。さきほどスキルの伝承と言いましたが、制作陣は、年末の紅白に向けて毎週うたコンを通じて生放送の制作や技術を習熟している面もあります。たとえば紅白の審査員の方は、本番での舞台転換の早さに驚かれることが多いのですが、毎週うたコンで鍛えたスキルがないと、一年に一回だけの四時間半の生放送でミスなく行うのは難しい。やはりうたコンがあるからこそ、紅白につながっている部分は大きいと思うのです」 そんなうたコンのスタッフは、技術、美術、事業、制作で総勢150人を超えるそう。たった45分の放送時間の中に、たゆみない技術力が集結しているといえる。そのうえ、ステージ上のミュージシャンたちは職人級だ。 「この番組は、ミュージシャンの皆さんのおかげで成り立っています。リハは当日のみなので練習に数日かけている時間はありません。毎週、ほぼ初見で楽曲を演奏するには、相当な技術が必要なのは言うまでもありません。ミュージシャンの皆さんは本番直前までオリジナルの音源を楽屋で聴いたりしながら、譜面だけでは伝わりにくいニュアンスを掴んでいらっしゃいます。もちろん生放送ゆえのプレッシャーもあると思います。これはアーティストの方にとってもそうですが、ミスがそのまま放送されてしまう緊張感が、音楽の熱量に変わっているのではないでしょうか」 生演奏にこだわっている『うたコン』だが、アイドルとして出演した方々の中で印象的だったグループを聞いてみた。 「櫻坂46や日向坂46などの坂道のグループの最新曲を、うたコンバンドの生演奏でお届けした回が印象的でした。ファンの方々も“生演奏だすごい!”とSNS上でも熱くリアクション頂きました。まさにここでしか見られない貴重なパフォーマンスをお届けできたと思っています」 前編でSNSの話があったが、チーフプロデューサーの立場から、放送中はSNSをチェックしている。 「うたコンがトレンドに上がっていないかはひそかにチェックしています(笑)。もちろん視聴者の方の反応も見ています。今は見逃し配信もあるのですが、生放送の有観客で放送している音楽番組はうたコンだけなので、できればリアルタイムでたくさんの方にご覧になって頂きたいです」