『ちびまる子ちゃん』TARAKOさん後任の菊池こころはどんな声優? “交代問題”を考える
かつてない大役だ。TVアニメ『ちびまる子ちゃん』でTARAKOさんの後を継いでまる子を演じることになった菊池こころには、『ドラえもん』で大山のぶ代の後を引き受けた水田わさびに負けない注目が集まり、しばらくの間は「よく演じている」とか「やっぱり違う」といった声がつきまといそう。もっとも、声優としての実績は過去に演じてきたいくつもの役で分かっている。やや癖のあるまる子というキャラクターも、しっかりと自分のものにしていってくれるだろう。 【写真】34年に渡ってまる子を演じられたTARAKOさん 「TARAKOさんが大事に演じ続けてきた“まる子”。正直怖い気持ちもありますが、『ちびまる子ちゃん』が大好きだというこの気持ちを大切にして一所懸命努めます。しばらくは耳慣れないと思いますが、どうか長い目で見守っていただけたらとても心強いです。よろしくお願いいたします」(※1) 長年、『ちびまる子ちゃん』でまる子を演じてきたTARAKOさんの訃報を受け、後任のまる子役に決まった声優の菊池こころは、公式サイトにコメントを寄せて、まる子という役を演じる気構えを示した。「しばらくは耳慣れないと思いますが」という言葉は、過去のアニメ番組で何度も行われてきた声優交代の度に取り沙汰されたこと。それでも、多くはしっかりと後を受け継ぎ、役を自分のものにしていった。 『ちびまる子ちゃん』と同じようなご長寿アニメでは、『ドラえもん』でドラえもんの声を大山のぶ代から水田わさびが引き継ぎ、『クレヨンしんちゃん』で野原しんのすけの役を矢島晶子から小林由美子が引き継いだ。いずれも独特の声質や演技が求められる役柄だが、水田わさびは得意としていた少年役をアレンジするようにしてドラえもんになりきった。小林由美子も少年役を多く経験してきた実績に、演技力を乗せてしんちゃんのふざけたような幼稚園児を演じている。 菊池こころも、こうした流れに乗っていけるかどうかというと、やや見えないところがある。基本的に声質がキュートなのだ。たとえば『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』のうちはサラダは、サスケとサクラの間に生まれた娘で、火影になるといって頑張る優等生的キャラクター。勝ち気だが愛らしいところもあって、声にもそうしたキャラクター性が滲んでいる。 『ねぎぼうずのあさたろう』で演じたこももも、女忍者で強気なところを漂わせつつ、愛らしさも感じさせる声音で観る人をひきつける。林原めぐみを少しだけハイトーンにしたような感じとでも言えば印象は伝わるか。やはり林原のように前へと飛び出すような強さがあって耳に残る。演技についてもなかなか巧みだ。 『デジモンユニバース アプリモンスターズ』のガッチモンや、『ハートキャッチプリキュア!』のポプリのようなマスコット系キャラクターも演じて来た。男の子のバディであっても女の子のパートナーであっても、しっかり演じて頼もしさを感じさせるバイプレイヤーぶりを聞かせてくれた。 そうかと思ったら、『エア・ギア』では鰐島亜紀人という二重性を帯びたキャラクターになりきって、尖った少年像といったものを見せてくれている。それでいて『銀河へキックオフ!!』のクールな天才ストライカー、青砥ゴンザレス琢馬も演じてしまうのだから、底が知れない声優だ。 とはいえ、まる子は特殊で特別だ。『戦闘メカザブングル』でチルという子供を演じ、『まじかる☆タルるートくん』でやはり子供のようなタルるートを演じていたTARAKOさんが、同じようなキャラクター性を持った少女を演じた上で、30年をかけて作り上げてきた役だ。その声質なり演技は、菊池こころが演じてきた役の上には見当たらない。抜擢が発表され時、誰もが「えっ」と驚いたのも分かるだろう。 似ている声を選ぶなら、『みどりのマキバオー』でミドリマキバオーを演じ、『ポケットモンスター』のシリーズでニャースを演じ続けて来た犬山イヌコが近かった。あるいは、劇場アニメ『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』で、“おんたん”こと中川凰蘭に、原作者の浅野いにおも認める演技でなりきったあのも、多忙ささえクリアできれば起用されて不思議はなかった。どちらも声質が近く、演技にも似たところがあったからだ。 菊池こころはその点で、比較して似ているといった判断を下せる材料がない。どちらかといえば澄んだ鈴の音のような声で、まる子のようなひねくれたキャラクターをどう演じるのかが読めないが、ここで大切なのがTARAKOさんも決してまる子そのものの声ではなかったということだ。『ノワール』というTVアニメでアルテナという落ち着いた雰囲気の女性司祭を演じている。その演技はまる子とはまるで似つかない。 TARAKOさんはシンガーソングライターでもあって、伸びのある歌声を聞かせてくれる楽曲を幾つも発表している。それでいて演じれば、まる子のような声も出せるところに、声優が持つ演技力の高さがあるのだとしたら、同じことも菊池こころにあてはまるのではないか。そんな期待も浮かんでくる。 そもそも、似せなくてはいけないのかといったこともある。『天才バカボン』というTVアニメがあって、バカボンのパパを雨森雅司が演じていたが1984年に死去。「~なのだ」という独特の台詞回しも含めてキャラクターとして確立していただけに、『平成天才バカボン』で後任として起用された富田耕生も「悩んだし、やめた方がいいとも言われた」とインタビューで答えていた。 そこで、「赤塚漫画の基本はギャグとペーソスといたずらっぽさがあること。それを基本にやれば、後ははねまわっていればいいなあと」思い至り、「似せてやるのはつまらない」と考え自分ならではの演技で収録に臨んだという。結果はピタリとハマって、平成を通してバカボンのパパを演じ続けた。 赤塚作品では、『おそ松くん』イヤミというキャラクターがいて、最初のTVアニメでは小林恭治が演じていたが、2作目では肝付兼太が演じることになった。制作したアニメスタジオの社長によれば、赤塚は最初、違和感を表明していたというが、すぐに何も言わなくなったという。演技によって異論を封じた格好だ。 大ベテランの声優でも思い悩んだ声優の引き継ぎだが、そこで重要だったのは前の声優とそっくりな声で演じることではなく、その役に相応しい声で演じることだった。それが結果として違和感なく聞ける声を作り出すに至った。菊池こころも20年のキャリア持つ声優だけに、自分らしさとまる子らしさを兼ね備えた令和の『ちびまる子ちゃん』を作り上げていってくれるだろう。 参考 ※ https://realsound.jp/movie/2024/04/post-1629427.html
タニグチリウイチ