「オーバードーズで亡くなった海外の俳優の洋画はよくて、日本の俳優が薬物で捕まると上映中止になる意味がわからない」高知東生9年ぶり商業映画はギャンブル依存症がテーマ
刑罰を望むのは取り締まる側の都合
――映画の中でも、偏見の例として「誘惑に弱い人たち」「快楽の問題でしょ」というセリフがありましたが、こういった間違った知識が広まってしまったのは、なぜだと思いますか。 田中 ギャンブルやお酒、買い物にしても、普通は気分転換にやるもの、嗜好品が対象っていうのはあるでしょうね。それに手を出さなければ、ならないという大前提があります。誰でもなる病気じゃないから。たとえばうつ病とかは、誰でもなる可能性がある。 でも依存症の場合は、そもそも娯楽に手を出した、ごく一部の人がなるもので、だから同情できない。発症率はだいたい2%くらいなので、残り98%の人は「自分もやってるけど大丈夫」っていう状態なので、理解しづらいんですよ。でも確率が低いだけで、2%の人はなるからね。今は大丈夫でも、可能性はゼロじゃない。なんか「意志が弱いから」とか言われるけど、何言ってんの、私めっちゃ意志強いから。 ――主に薬物依存に関しては、刑罰にどれほどの抑止効果があるのか、それよりも回復へ繋げるほうが大事である、という議論があります。 田中 刑罰を望むのは日本の国民性もだいぶあると思うけど、あとは取り締まる側の都合ですよ。最近も京都の木津川ダルク(薬物依存症からの回復をサポートする施設)にガサ入れが入ったニュースがあったけど、あれは自分たちで出頭しますって言っていたのに、わざわざガサ入れをして、それをニュースとして出した。昔から日本に限らず、アメリカだとニクソンの時代から、世界中で薬物の取り締まり政策は、政治的・官僚的なアピールにずっと使われてきたんです。スティグマを強化することで、重要な任務を果たしているとアピールする。
依存症についてすべてをさらけ出した芸能人はいなかった
――ナカムラ監督は取材をする中で、どんなことを感じましたか。 ナカムラ 私が感じたのは、どんなに真面目に治療のステップを踏んでいても、そう簡単に、短い時間で回復するものではない、ということです。治るまでには何年もかかる。それは高知さんもそう。白でも黒でもない、グレーの時間がすごく長いんです。グレーでいる間に、自分でも疑心暗鬼になるし、スリップ(依存症の再発)の恐怖とも戦っている。そんなときに世間から冷たい言葉をかけられたら、どんなに辛いか。そのことを社会にも知ってほしいと思いました。 田中 依存症は完治するっていうことがないんですよ、慢性疾患だから。でも糖尿病と同じで、きちんと管理し続ければ問題なく過ごせる。 ――病状の回復が厳しい道のりであることはもちろん、それとは別で、新しい仕事に就いたり、人間関係を構築したり、社会生活への復帰のほうにも厳しい道のりがありますよね。 田中 そういった社会復帰への手助けも自助グループではやっています。病気も回復して、新しい仕事も見つかって、人間関係も良好で、なんて一気にできるわけがない。少しずつ仲間たちと支え合う中で、復帰の道を目指すしかない。それこそ高知さんだって、今でこそ全国で講演活動をされていますけど、私が最初に講演の依頼をしたときには、めっちゃ嫌がってましたからね。 高知 そりゃあ嫌でしたよ。だって、同じ依存症の仲間たちにでさえ心を開くのが大変だったのに、経験もない、理解もしてくれるかわからない、そんな大勢の人たちの前で、素直に自分をさらけ出せるわけがないと思ってましたから。自分自身、歪んだ認知のかたまりが大きかったせいで、溶かすのにもだいぶ時間はかかりました。 田中 芸能界の第一線で活躍していたのに、逮捕されていろいろなものを失った、そのことを高知さんは恥だと思っていたわけです。そんな恥ずかしい経験を他人に話すのは、誰だって嫌ですよね。でも、私は絶対にやってほしかった。きっとそれが復帰に繋がると思っていたから。 高知 これまでに薬物で逮捕された芸能人はたくさんいるけど、その体験をさらけ出して、素直にすべてを語った人なんて一人もいなかったんですよ。参考になる人が誰もいない。そりゃあ怖いでしょう。