<シクロクロス> レース用自転車に「隠しモーター」を仕込むことは可能?
ベルギーで今年1月開催されたシクロクロス世界選手権で、女子の「U-23」に出場していたファンデンドリーシュ選手(ベルギー)が使用していた自転車から、小型モーターやバッテリーが発見されたことが報じられました。 シクロクロスとはオフロードの周回コースで行われる過酷な自転車競技。コース内には自転車を担いで階段を駆け上がるような障害物も設けられています。当然、選手たちは徹底的に軽量化された高性能な競技用自転車を使用しています。はたして、そんな自転車に外見ではまったくわからないような電動アシスト機構を仕込むなどということが可能なのでしょうか。日本国内最高のロードレースとして知られる『ツアー・オブ・ジャパン』大会ディレクターの栗村修さんに聞きました。
市販品を使用していた?
栗村さんによると、自転車レースの世界では、電動アシスト機構を使用することを「メカニカル・ドーピング」と呼び、2010年頃からロードレースやシクロクロスの競技で使用している選手がいるのではないかと疑いの声が出ていたようです。ヨーロッパではすでにシートチューブにモーターを仕込むタイプのものなどが市販されていて、今回も「おそらく市販品を使用していたのではないかと思われる」とのことでした。 『VIVAX ASSIST』というオーストリアメーカーのウェブサイトを確認すると、モーターの出力は約200ワット。バッテリーを含めた重さは2キログラム弱で、1時間ほど電動アシストを使って走ることができるようです。ちなみに、自転車競技の選手が自らの肉体から絞り出す「出力」は「6時間走るレースで平均250ワットくらい(瞬間最大出力は1400~1500ワット=約2馬力)」といわれています。モーターの出力をたとえば50ワット程度に抑えたとしても、極限のレースにおいては大きな差が生まれることは明らかです。 今回の問題で、当事者のファンデンドリーシュ選手は「メカニックが間違って友人の自転車を準備してしまった」と弁明しているようですが、栗村氏は自身のブログで「突っ込みどころが満載すぎてまったくもって言葉がでません……本当に恥ずかしいです」と切り捨て、「モーターを仕込んでまで勝とうとする行為は自転車競技を根底から否定する行為で、断固として許すことはできません」と憤慨しています。 また、ヨーロッパなどでの大会では「以前から高周波探知機などを使った検査が行われていた」そうですが、最近では「リム部分にマグネットを仕込んでホイールそのものをモーターにしてしまう新型のシステムが存在しているということが自転車競技界の『都市伝説』になっている」といいます。そして、「そうしたシステムによる不正は、現在の検査システムでは発見できないだろう」と指摘。さらに『ツアー・オブ・ジャパン』など日本での自転車レースでは、ヨーロッパのようなメカニカルドーピングの検査は実施されていないという点も、栗村氏は懸念しています。