新型コロナ禍はボクシング元世界王者ら経営の飲食店を休業に追い込み第ニの人生に打撃…「なんとか生きています」
新型コロナウイルスの感染拡大という未曾有の事態は、飲食店の経営者として第二の人生を歩み始めているプロボクシングの元チャンピオンたちをも直撃した。1990年代の浪速のボクシングシーンを盛り上げた元WBA世界ライトフライ級王者の山口圭司さん(46)もグロッキー寸前。大阪・天満の「函館Barハメド」(大阪市北区天神橋4-11-3 2階)を経営、マスターとしてカウンターに立っていたが、コロナ感染拡大防止のため、4月7日から休業を余儀なくされた。 「まさか、こんなことが起きるなんて、誰にも分からないですよね。1日でも早く終息してほしいけれど、こればっかりは…。お金のことは嫁さんに任せていますが、貯金もそうそうないし、この状態が続くようだとしんどいですよ」 ”悲痛な叫び”はあえて押し殺したままだった。 山口さんが念願のバーをオープンしたのが2016年。店内の壁にはガラスケースに入ったチャンピオンベルトが置かれ、カウンター12席、テーブル8席とバーにしてはゆったりとした店だ。スペシャルカクテルは「プリンス圭司16スペシャル」「炎の男」「カンムリワシ」「悪魔王子」などボクシングにちなんだネーミング。 場所はJR天満駅の改札を出て1分ほどのところ。飲食店の激戦区として知られ、人気店がひしめくが、「函館Barハメド」はボクシングファンに愛される店として認知されてきた矢先の新型コロナ禍だった。 “金庫番”で妻の美佐子さんが言う。 「ほとんどの飲食店がそうやと思いますけど、1年目はマイナスで2年目にとんとんになって、やっと生活ができる、3年目に温泉旅行でも行こうか、となるぐらい。うちは3年6か月。さあ、これからというときやったんです。この業界は1月末から暇になって2月の売り上げは悪いもの。3月に入ると色んなお祝い事があるから盛り返すんですけど、今年は新型コロナで逆にどんどんお客さんが減った。圭ちゃんはあんな人だから3月半ばぐらいから電車に乗ってくる人が来店すると、”心配やから無理せんといてや”と気遣っていました。本当はお客さんが来てくれた方がいいに決まっているのに、ね。いつ閉めようかと迷っていたので大阪府の休業要請はきっかけになりました」 店名の「函館Barハメド」には山口さんの思いが詰まっている。函館は出身地。現役時代に函館市民栄誉賞を受け、店には故郷の地ビールも。バーにしたのはトム・クルーズ主演の映画「カクテル」を10代のころに観て憧れたからだという。 現役時代から酒豪で知られ、”大魔神”こと元横浜の佐々木主浩さんと赤ワインの飲み比べをし、負かしたという武勇伝もある。 「阪神戦の後でしたね。飲み比べの後、僕は倒れて、ワイングラスで肩を負傷したんですよ。勝ったっていえるのかな」 店名の最後につけたハメドは、当時のボクシング界に“悪魔王子”としてセンセーションを巻き起こした世界3団体統一王者ナジーム・ハメド(英国)から取っている。現役時代から大好きなボクサーでトランクスもハメドのそれを真似て作ったほど。