「触れないでおきましょう」は本当にハッピーでポジティブか。多様なカップルを祝福するキャンペーンの先に欲しいもの【小島慶子】
時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。 最近、ある結婚情報サービスの広告が注目されました。「あなたが幸せなら、それでいい。」のキャッチコピーで、主要な駅に様々なカップルの写真を使った広告を展開。その中には事実婚カップルや、同性カップルの写真も含まれています。 写真の横に綴られたこの広告キャンペーンのメッセージには、結婚しないことも、子どもを持たないことも、別居婚も、再婚も、いろいろな形があっていいと綴られています。「誰がなんと言おうと、いいのです。幸せの決定権は、いつだって自分にあるのだから。どうか選べますように。他でもない、あなたが幸せになる選択肢を。」 そうだそうだと、励まされたカップルもいるでしょう。街でこの広告を見て、なんだか明るい幸せな気持ちになったという人もいるでしょう。「うん、自分はどんなカップルでも祝福するよ、本人たちが幸せならそれでいいよね!」と。そうやって、様々なカップルに対して、世間にハッピーでフレンドリーな空気が広がっていくのは大事なことです。でも、空気だけで終わらせないことが肝心ですよね。
幸せの決定権。それを、そもそも手にしていない人が存在する現状
かつて大日本帝国憲法のもとでは、結婚はイエのものでした。親が決めた顔も見たことがない相手と結婚させられることも珍しくありませんでした。結婚はイエとイエの問題で、家長(戸主)が決めるものだったからです。 敗戦を経て憲法が変わった今は、結婚は当人同士の問題で、自分で決めることができます。二人が結婚したいと望めば結婚でき、望まなければ強制されることがないのが、「結婚の自由」です。結婚するかしないか、誰とするかを自分で決める自由がある。全ての人は法のもとに平等であり、幸せになる権利があるのです。 なのに、結婚したくても決して叶わない人たちがいます。どれほど互いが愛し合っていても、定められた手続きを踏んで役所に届けを出しても、婚姻関係を結ぶことは不可能です。国はそれを認めません。二人が同性カップルだから。 広告のコピーにあった「幸せの決定権はいつだって自分にあるのだから」は力強い言葉です。でも結婚を望む同性カップルにとっては、重い言葉でしょう。愛し合う人と結婚するという幸せの決定権を、そもそも手にしていないのですから。異性カップルも同性カップルも分け隔てをしない「婚姻の平等」は、日本ではまだ実現していません。