【今月見るべき新作映画】『美と殺戮のすべて』巨大資本と闘う写真家のドキュメンタリー
発見、感動、思索……知的好奇心を刺激する、映画好きな大人のための今月の新作を厳選! 【写真】今月見るべき新作映画3選
オピオイド危機に立ち向かう写真家、ナン・ゴールディンの情熱を追う『美と殺戮のすべて』
1970~80年代のサブカルチャーシーンに集う親密な友人たちをフィルムに収め続け、1986年の作品集『The Ballad of Sexual Dependency』が大きな反響を呼んだ写真家ナン・ゴールディンは、現代アートに多大な影響を与え、昨年もイギリスの現代美術誌が選ぶアート界「Power 100」の1位に輝いている。そんな彼女は、過去に手首の痛みに処方されたオピオイド系鎮痛剤オキシコンチンの中毒からのサバイバーでもある。2000年頃から依存症や過剰摂取による中毒死が急増し、過去20年間に50万人もの死亡者を出したオピオイド危機が全米社会を揺るがしているが、このオキシコンチンを過剰に販売促進して莫大な利益を得た製薬会社パーデュー・ファーマの所有者が、アート界の巨大スポンサーであるサックラー家だと告発される。
ゴールディンはこのサックラー家の責任追求と、オピオイド危機の事態改善を訴える団体を立ち上げ、サックラーの名を冠する展示スペースを持つメトロポリタン美術館やグッゲンハイム美術館、大英博物館などで抗議活動を繰り広げた。最愛の姉をはじめ、愛する人々との出会いと別れが培ったゴールディンならではの眼差しを浮かび上がらせるフィルムは、ドキュメタリーでありながらヴェネツィア国際映画祭の最高賞である金獅子賞に輝いた逸品だ。 『美と殺戮のすべて』 3月29日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、グランドシネマサンシャイン池袋ほかロードショー BY REIKO KUBO