『虎に翼』よねと轟が向き合う“尊属殺人罪”の問題 桂場の渋面に重ねたサイレンの不穏さ
性的虐待の被害者に向き合うよね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)
学生運動が激化する中で、寅子のもとによねから電話がかかってくる。寅子が山田轟法律事務所に向かうと、そこには香子(ハ・ヨンス)と汐見がいた。香子の娘の薫(池田朱那)が安田講堂事件に参加したことで逮捕されたというのだ。その弁護をよねたちに依頼しに来た香子だったが、突然自分で弁護したいと言い出したことで、議論がまとまらないでいた。実の娘の弁護を担当するなんて、冷静でいられるはずがない。ましてや、司法試験に合格したばかりで弁護士としての経験のない香子であればなおさらだ。 山田轟法律事務所の手伝いをしている美位子(石橋菜津美)が寅子に挨拶に来る。美位子は父親を絞殺し、尊属殺人の疑いで逮捕。美位子は父親から何年にも渡って性的虐待の被害に合っており、よねたちはその弁護を引き受けていた。かつて刑法200条の尊属殺人罪について、穂高らが最高裁判決に反対していたが、その努力もむなしく合憲とされていた。「私たちは最後まで戦う。こんな理不尽が許されてたまるか」と語るよねの表情は怒りに満ちていた。同じ殺人でも、なぜ親を殺したというだけで罪が重くなるのか。よねと轟の法との戦いが幕を開ける。 一方で、昭和44年3月、安田講堂事件の逮捕者のうち二十歳未満の少年が東京家庭裁判所に送致されてきた。社会への怒りや失望は痛いほどわかる。そうであるがゆえに、寅子は一人ひとりにじっくりと向き合う。それが少年たちの更正につながると信じて。 「原爆裁判」で国側の被告代理人を務めた反町(川島潤哉)が汐見のもとへやってくる。現在は政民党幹事長の秘書をしている反町によると、幹事長の地元の名士が21歳であることを理由にいまだ勾留されていることに不満を抱いているらしい。家裁に送致された多くの少年が不処分となる中で、たった1、2歳の年の差で異なる処遇となるのはなぜなのか。桂場の険しい表情とともに、流れるサイレンが不穏だ。
川崎龍也