「BUCK-TICKはずっとこの5人」。パレードの続きを宣言した〈バクチク現象-2023-〉をレポート
2023年12月29日、BUCK-TICKが〈バクチク現象-2023-〉を日本武道館にて開催した。
〈人生は愛と死〉のリフレインが今さらのように突き刺さる
「不安の中、足を運んでくれて本当にありがとう。……不安だったよね?」 アンコールで聞いた星野英彦のこの言葉が、ストンと腑に落ちた。あぁ、そうか、今日までずっと不安だったのだ。 毎年恒例、年末の日本武道館公演〈THE DAY IN QUESTION 2023〉が中止になり、代わりに〈バクチク現象-2023-〉としてのコンサートが決定。特設サイトには「さあ、始めよう一一」と強い言葉が踊っていたが、いったい何を始めるのか、そのあたりがまるでわからなかった。櫻井敦司のいないBUCK-TICKを見たいのか。ではこのまま終わればいいのか。それとも誰か別のヴォーカルを立てるのか。何ひとつ首を縦に振れないこれらが、不安の正体だ。 前例のないコンサート。最初は何もかもが硬い。暗転の瞬間は歓声ではなく、息を呑む声が会場中から上がっていたし、「さぁ始めようぜ、BUCK-TICKだー!」と大声で叫ぶ今井寿も、明らかに緊張で気負いすぎの感がある。生演奏と同期で響きわたる櫻井の歌声。MCや煽り声も入ったライヴ歌唱がほとんどだ。スクリーンには過去のライヴから櫻井だけをピックアップしたものがカラーで映り、同時にリアルタイムのステージもモノクロで映し出される。華やかなる魔王と、喪に服しているような現実の対比。正直、喜んでいいのかもわからない。これが本日の趣旨なのか? 違うと気づいたのは5曲目「FUTURE SONG -未来が通る-」だ。今井歌唱から始まり、櫻井歌唱のパートは星野も参加。二人のギタリストが〈引くな怯むな 進め 未来だ〉と唄うこの曲に櫻井の映像は出てこない。たとえるならイアン・カーティスを失ったジョイ・ディヴィジョンが、残りのメンバーでニュー・オーダーとして再出発した、そういう方向もアリなのかと一瞬思う。ただ、それもまた本日の主題ではないようだ。 突然大昔の、髪を派手に立てたMV映像が出てきたのは、中盤「愛しのロック・スター」である。1995年発表、DER ZIBETのISSAYと唄ったこの曲を、今メンバーが積極的に選曲したとは考えにくい。ISSAYが急逝した昨年夏、彼を追うように旅立つ直前、櫻井の中には、かつて自虐的に唄ったこの曲を愛おしく振り返る気持ちがあったのではないかと思う。もちろん、今となれば答え合わせをする機会もないのだが。 代わりにあるのは膨大な記録。お誂え向きとなるヤガミ・トール還暦祝いのライヴ映像が登場する。ISSAYとの27年ぶりの共演、彼としっとり視線を交わす櫻井を見ながら、愛し合ってますなぁと苦笑が漏れる。二人の魂が共鳴するさまを誰もが愛していた。二人して天国に行ってしまった偶然すら可憐だと思う。そういうことを考えた瞬間、ちゃんとお別れ会をしなくちゃ、と気づく。櫻井個人を偲ぶセレモニーはあったが、大好きな「愛しのロック・スター」を、盛大な音楽と照明と映像でいつくしむ会は、何度あったっていいだろう。その第一回が今、ここで行われているのだ。 続いての曲が「さくら」だったことも完璧な流れだ。最愛の母に捧げた一曲を、今度はメンバーが最愛の櫻井に捧ぐ。演出はできるだけエレガントに。モノクロのスクリーンを縁取るように薄桜が散っていたこと、さらには武道館の白い天井が淡いピンクに染まっていたこと、曲が進むにつれてゆっくり満ちていく月の映像が、最後には優しい満月になっていたことなど、あらゆる演出が愛の深さを物語る。さらには今井のインプロの間に櫻井愛用の手燭に火がつけられ、そのまま「Lullaby-III」、「ROMANCE」につながるシーンも最高だった。 「ROMANCE」。2005年から近年までずっと演奏されてきたこの名曲は、BUCK-TICK楽曲の中でも最高に〈魅惑の櫻井色〉が強い曲のひとつ。ゴシックとロマンティックが溶け合った歌の完成度。手燭を片手に揺れる炎と舞い、とろけるような夢を見せてきた10何年ぶんのパフォーマンス映像。それらを改めて武道館で堪能していると、実存だけが最重要事項ではないように思えてくる。こんなに美しいものがあった。今もここに残っている。その奇跡だけで十分じゃないのか。 『異空 -IZORA-』ツアーと同様の鮮やかな光の映像に、一瞬だけ両手を広げる櫻井のシルエットが映り込んだ「太陽とイカロス」は、本当に〈祝祭〉かと思うくらいの眩しさ。さらには炎がぶち上がる「Memento mori」はいつ聴いても血の騒ぐ祭囃子だ。三分割されたスクリーンには、中央に過去の櫻井映像、両脇にリアルタイムの4人映像が配置されるが、最初はモノクロとカラーで分かれていた在/不在の差が、この時点ではもうなくなっていた。〈人生は愛と死〉のリフレインが今さらのように突き刺さる。それしかないのなら、どちらも引き受ける。気づけば、開き直って笑いたい気持ちさえ生まれているのだった。 全員が今の気持ちを語ったアンコール。それぞれ口調は違ったが、要約すると、櫻井の肉体がなくてもBUCK-TICKはずっとこの5人、ファンの皆がいる限り続けたい、どういう形になるかわからないが来年には第二期B-Tとして新譜のレコーディングに入る、というものである。星野は「パレードは続きます」と二度も宣言し、今井は「なに死んでんだよ」などと悪態をつきながら、「泣いてもいい、号泣してもいいけど、そのことで苦しまないでください」と語りかける。考えたこともなかったが、一番聞きたかったのはこの言葉かもしれない。そういう一言をポーンと投げてくるのはいつだってこの人だ。ふいに、櫻井がかつて真顔で語った言葉を思い出した。「今井さんがあんなだから、やってられる」。 今井さんが言うなら続くのだ。BUCK-TICKは櫻井の残像と共に続く。それでいい、それがいいと強く思えた夜。最後の最後に発表されたのは未来の吉報だ。2024年12月29日、BUCK-TICK日本武道館公演、決定一一。 【SET LIST】 SE. THEME OF B-T 1. 疾風のブレードランナー 2. 独壇場 Beauty-R.I.P.- 3. Go-Go B-T TRAIN 4. GUSTAVE 5. FUTURE SONG - 未来が通る - 6. Boogie Woogie 7. 愛しのロック・スター 8. さくら 9. Lullaby-III 10. ROMANCE 11. Django!!! - 眩惑のジャンゴ - 12. 太陽とイカロス 13. Memento mori 14. 夢魔 -The Nightmare 15. DIABOLO ENCORE01 1. STEPPERS -PARADE- 2. ユリイカ 3. LOVE ME 4. COSMOS 5. 名も無きわたし ENCORE02 1. New World
石井恵梨子