【板垣李光人が取材】地震で存続危機も……「能登上布」唯一の織元、伝統を守る思い 前を向くベテラン職人の“心の支え”は
■久世さん「前に進んで行きたい」
以来、必死で前を向いてきた久世さんに、今の思いを聞きました。 「目の前の景色が変わっていないということが、メンタルに残像としてずっと残り続けていて、しんどいというか…。だからこそ、職人さんの織ってくれる能登上布をこれからもっと大事にして、お客さんに伝えたいと思いました」 板垣さん 「1本1本にその思いが込められていく…」 久世さん 「とにかく後ろを向いたらあかん。前に進んで行きたいという思いがあるので」
■機を織る気持ちになれなかった織子も
そんな久世さんの思いに触れ、少しずつ前に歩き始めた織子さんもいました。七尾市に住む、長尾和美さん。25年間、久世さんのところで能登上布を織ってきたベテランです。 七尾市は、特に大きな被害が出ました。もともと両親の介護をしながら働いていましたが、地震で自宅が被害に。余震の恐怖から、しばらくは車や納屋で暮らしてきました。つらい状況が続き、どうしても機を織る気持ちにはなれなかったといいます。 「危ないガラスとか見ると(地震を)思い出したり、自分ではどうにもできないので。皆さん一人ひとり、いろんな気持ちとかありますから」。長尾さんはそう振り返ります。 今でも、余震が起きると当時のことを思い出すといいます。それでも心の支えになったのは、日々少しずつ復旧していく工房の姿でした。 長尾さん 「(工房が)早い段階で再開しているのを見て、自分もすごく機を織りたいという気持ちが強くなりました。工房の女将さんや職人の方も皆さん一生懸命仕事をされているので、そこは見習いたくて」
■自宅で織り、工房に搬入する形で再開
板垣さん 「長尾さんの心を突き動かすものは何でしょうか?」 長尾さん 「ワクワクドキドキする時間が機を織っている時間なので、それは大事にしたいです」 長尾さんは現在、自宅で機織りを行い、出来上がったものを工房に搬入する形で再開しています。 地震からまもなく半年。長尾さんは「あっという間です。これから(毎年)1月を過ごすのは今は恐怖でしかないですけれど、季節が進むと気分も変わりますし、勇気を持って1日1日を大事にしていきたいと思っています」と語りました。 (6月19日『news zero』より)