「私と同じくらいの苦しみを味わわせてやる」余命1年半の宣告と夫の不倫告白を同時に受けた74歳女性の壮絶な復讐劇
不倫の噂も晴恵が仕組んだことでした
つまり、不倫の噂は。 「ええ、晴恵が仕組んだことでした」 これまた驚いてしまう。非常に陰湿な手口である。 が、女にはそういうところがあることも否定できない。執念深いというか逆恨みというか、憎む相手がいることで自分を奮い立たせようする。そんな女を、私も何度も小説に登場させて来た。 「それを知った夫は、そこまでやる晴恵に空恐ろしさを感じたようです。結局、それで尚更別れられなくなったと言っていました。別れたら、何をされるかわからない気がして、不安になったと」 それはそれで腹立たしい言い訳である。 「このことは、夫は最初、死ぬまで秘密にしておくつもりだったようです。でも、思いがけず私のがんが再発して、先に死ぬことがわかって、罪悪感に苛まれたんでしょうね。懺悔となったわけです」 夫を許したのですか? 「許すというか、深々と頭を下げる姿を見ていたら諦めみたいな気持ちになっていました。考えてみれば、この人をひとり遺してゆくことが、結局最大の復讐になるんだろうなって」 確かに残酷な復讐である。
これ以上根も葉もないことを言うなら名誉棄損で訴えてもいいのよ
「でも、晴恵はこのままにはしておきません」 郁代さんはきっぱりと言った。 何を考えているのだろう。 「この間、彼女に電話したんですよ。直接話をするのは、仕事を辞めて以来ですから30年ぶりくらい」 相手の反応はどうだったのだろう。 「そりゃあ、驚いてましたね」 どんな話を? 「世間話をする気はなかったので、単刀直入に聞きました。あの時、社長との不倫の噂を流したのはあなたねって。その上、私の夫と不倫してたわねって」 そしたら? 「最初はとぼけてましたよ、誤解だの勘違いだの、はぐらかそうとしました。すべて夫から聞いていると言っても、何の話かわからない、旦那さんボケたんじゃない、なんて言うんです。挙旬の果て、これ以上根も葉もないことを言うなら名誉棄損で訴えてもいいのよって言い始めました」 強気に出て来ましたね。 「その時まで、もし晴恵が心から謝罪してくれるなら、すべて水に流そうと思っていたんです。けれど、その気がまったくないことがわかりました」