【伝統的酒造り】県産酒の追い風に(11月18日)
日本の「伝統的酒造り」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録される見通しとなった。高い品質を誇る県産酒を広く世界に発信する好機となる。国、県、市町村と酒造関係者が一体となって輸出増に努めるとともに、来訪客を満足させるおもてなしの取り組みを深めてほしい。 伝統的な酒造りは室町時代に原形が確立したとされる。500年以上にわたって各地で受け継がれ、発展してきた。県内の神社の例大祭では古来、神様に供えられたどぶろくが参拝者に振る舞われた。県立博物館によると、酒造免許を持つ神社は東北6県で唯一、本県のみにあり、数は国内最多の10社に上る。酒は祭りや結婚式などさまざまな儀式で重要な役割を担うなど、地域の生活や文化に欠かせない存在と言え、文化遺産にふさわしい。 「和食 日本人の伝統的な食文化」が2013(平成25)年にユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、海外で日本食ブームが起き、日本酒の輸出量も年々増えている。県によると、県産アルコール類の2022(令和4)年度の輸出額は7億7500万円で、統計を取り始めた2012年度以降で最高となった。日本酒は約5割に及ぶ。文化遺産への登録を弾みに県産酒の知名度を向上させる取り組みを強化すべきだ。
例えば、日本酒と和食の組み合わせは本県らしさが売りになる。会津の「こづゆ」「ニシンの山椒[さんしょう]漬け」、県北の「いかにんじん」、郡山市の「鯉[こい]の甘露煮」、相馬市の「ほっきめし」など各地の郷土料理との「文化遺産ツーリズム」を企画してはどうだろう。みそ、しょうゆ、ぬか漬けなど、県内の優れた発酵食品も加えれば、独自の持ち味を発揮できる。健康志向の高まりもあり、国内外からの誘客も見込めるだろう。 昨年の国内出荷量は約40万キロリットルで、ピークだった1970年代の4分の1に減り、蔵元の経営は厳しい。そんな中、全国新酒鑑評会金賞受賞数9年連続日本一という「日本酒王国ふくしま」を築き上げた蔵元を応援する機運も一段と高めていきたい。消費者、飲食店、宿泊施設、関係団体などが一体で消費拡大に努めることが伝統の継承につながる。(古川雄二)