静かな元日に日本を襲った、M7.6能登半島地震でもしも志賀原発が再稼働していたら――。
2024年1月1日の夕方、日本海側を襲った大地震はかつての福島第一原発事故の記憶も呼び起こしたが、能登半島にある志賀原子力発電所は大丈夫だったのか。ちょうど昨年3月、「敷地内に活断層はない」と判断され、再稼働に向かっていたが、もし先に動いていたら......? 【地図】志賀原発周辺の活断層ほか * * * ■安全上問題なしでも被害は出ている 東日本大震災に匹敵する最大震度を記録し、石川県を中心に広い範囲で深刻な被害をもたらした能登半島地震。 今なお頻繁に余震が続き、被害の全貌すら見えない中で気になるのが、今回の震源に近く、震度7の揺れが観測された石川県の志賀町に立地する志賀原子力発電所の状況だ。 幸い、1号機、2号機とも運転停止中で、再稼働に向けた原子力規制委員会による審査が進んでいる最中だった。 そんな志賀原発を保有する北陸電力は、地震発生時から一貫して「外部電源や必要な監視設備、冷却設備等については機能を確保しており、安全上問題となる被害は確認されておりません」という説明を続けてきた。 実際、原発周辺の自治体が設置したモニタリングポスト(空間の放射線量率を常時リアルタイムで測定する監視装置)でも、これまで異常を示す数値は示されていないことから、放射能漏れなどの深刻な事故が起きていないというのは事実だろう。 しかし、今回の地震で志賀原発がまったくの無傷だったかといえば、そうではない。 「むしろ、今回の地震で志賀原発の安全性に関する多くの懸念があらわになったのではないかと思います」 そう指摘するのは、原発問題に詳しいジャーナリストの青木美希氏だ。 「志賀原発では今回の地震で、外部電源を受けるために必要な主変圧器が故障し、2万リットルもの油が流出。その影響で、複数系統ある外部電源の1系統が使用できない状態になっています(1月10日時点)。 また、使用済み燃料プールでは、1号機、2号機共に、地震の揺れで冷却水が建屋内にあふれ出て、2号機では、プール内に異物が落下する事故も発生。原発の敷地内で複数の地割れや段差ができているほか、津波対策のために造られた高さ4mの防波堤においても基礎の沈降や傾きが確認されています。 いずれも、北陸電力は『現時点で安全上の大きな問題はない』としていますが、現状、変圧器故障の原因はわかっておらず、相次ぐ余震で残る系統が壊れる可能性も否定できません。 2007年に発生した中越沖地震では、新潟県の柏崎刈羽原子力発電所で今回のように変圧器から大量の油が漏れ、火災が発生するという事故も起きています。 いずれにせよ、今回の地震で志賀原発の設備に大きな被害が出ていることは否定できません。幸い、今回は運転停止中でしたが、すでに志賀原発が再稼働していたら......。原発の緊急停止や、その後の冷却等で、より難しい対応を迫られていたでしょう」 もうひとつ、気になるのが原発周辺のモニタリングポストの故障だ。実は、志賀原発周辺に設置された116ヵ所のモニタリングポストのうち、18ヵ所が故障し、データが取得できなくなったという。 1月10日に行なわれた原子力規制委員会の記者会見で、この点について質問された同会の山中伸介委員長は「原発周辺15㎞圏内のモニタリングポストは正常に機能しており、故障した地域についても、可搬型(持ち運び型)の計測器やドローンなどが使用できるので、特に大きな問題ではないと考えている」との見解を示した。 しかし、故障したモニタリングポストの多くは地震の被害が大きかった地域に設置されていたもので、仮に深刻な放射能漏れが起きた場合に、そうした地域の放射線量を把握できないのは問題だろう。 「2011年の東日本大震災の際には、被害の大きかった地域のモニタリングポストが使えなくなり、自治体の職員が放射線被曝リスクを覚悟して可搬型のモニタリング装置を設置したと聞いています。地震で障害が出やすい有線通信や携帯の通信網に加えて、衛星通信を利用するなどの対策が早急に必要です」(青木氏)