俊寛役の中村勘九郎（左）と瀬尾役の片岡亀蔵（カメラ・有野　博幸）

　歌舞伎俳優の中村勘九郎（４２）、中村七之助（４１）が２２日、鹿児島・硫黄島で三島村歌舞伎「平家女護島（へいけにょごのしま）　俊寛」を２０１１年以来、１３年ぶりに上演した。 　俊寛僧都（そうず）の流刑先と伝えられる硫黄島の砂浜で上演する歌舞伎公演。祖父の１７代目中村勘三郎さん、父の１８代目勘三郎さんが当たり役とした俊寛役に初めて挑んだ勘九郎は、３年の流人生活で憔悴（しょうすい）しきった姿で登場。その後、揺さぶられた感情を必死に押し殺し、島に残る決断をする様子を情感たっぷりに演じた。 　七之助演じる丹左衛門らが乗る赦免船は本物の船が使われた。島に取り残された俊寛が海へと遠のいていく船を見ながら「おーい！」と叫び、手を振る迫真の演技は、観客の涙を誘った。上演後、勘九郎は「砂浜の感触、波や風の音、自然と調和することができた。砂浜や岸壁には、魂が宿っています」と充実感をにじませた。 　俊寛の史実から約８５０年。ゆかりの地で繰り広げられた熱演に、ツアー参加者３００人を含む約５００人の観客が万雷の拍手を送った。ツアーは５分で完売した。勘九郎は「ここで経験したことが今後、大事になる。ほかの劇場でやることがあっても、船を見送った景色を忘れずに演じたい」と気を引き締めた。 　前回（１１年）、俊寛を演じた勘三郎さんは生まれたばかりの孫（勘九郎の長男・中村勘太郎）と「１５年後に共演したい」と語っていた。その翌年に天国へと旅立ってしまったが、１３歳となった勘太郎はこの日、島の海女の千鳥（中村鶴松）と恋仲となり、赦免船で島を去る丹波少将成経を好演した。 　勘九郎は「次回は次男の長三郎も連れてきたい」と宣言した。船を見送る場面で発する俊寛の印象的なせりふ「未来で！」を体現するように、中村屋の伝統が受け継がれていく。（有野　博幸） 　◆「平家女護島　俊寛」　１７１９（享保４）年に初演された近松門左衛門の浄瑠璃を歌舞伎化。平安時代の僧侶・俊寛僧都は平家打倒を企てるが、平清盛に知られて丹波少将成経、平判官康頼と鬼界ケ島（硫黄島）へ流罪となった。３年後、赦免船を喜んで迎えるが、赦免状に自身の名前がないことを知り、がく然とする。序盤から幕切れまで、見どころ満載の人気演目となっている。 　◆硫黄島　鹿児島市内から南西に約１００キロ。同県三島村の中央に位置する火山島。東西６キロ、南北３キロで別名・鬼界ケ島。定期船「フェリーみしま」で鹿児島港から約４時間。島の北東部にある硫黄岳は活火山で頻繁に噴煙を上げる。畜産が盛んで、人口約１２０人に対して牛は約１６０頭。小中学校、温泉はあるが、コンビニ、スーパー、レストランは１軒もない。