【内匠宏幸】コーチ陣をバッサリ…岡田彰布の「繊細力」空中分解させないキーマンの存在
「鈍感力」が注目されている。これは総理大臣のことである。支持率が危険水域にありながら、小手先の延命工作にこだわり、現実との乖離(かいり)を鈍感力とやゆされている。電気代の補助を打ち出すも、暑い7月ではなく8月から…とはいかに。国民はシビアに見ているのだ。だが、この鈍感力も才能のひとつ、と言われる。それくらいでないと、引っ張っていけない。 【写真】空中分解させない「キーマン」 国に比べれば、小さな、小さな組織である野球チーム。それをまとめ、導いていく立場が監督なのだが、阪神の岡田彰布には鈍感力はない。あるのは繊細力。こと野球に関しては、細かい。細かすぎるほど。だから、そのアンテナに引っかかった時、とんでもない反応をしてしまう。 6月30日のヤクルト戦(神宮)。8回表を終わって4点差。「確勝」状況で起きた崩壊現象は8回裏だった。ヤクルトの反撃にあい、アッという間の5失点…。9回表の最後は走者の本塁憤死という幕切れとなった。 さあ、そのあとだ。敗戦の振り返りを取材しようとするトラ番に、岡田は何もかもを包み隠さず口にした。関西人、大阪人には聞きなれた「お前」を連発。明らかに興奮している。そこから準備不足と投手コーチ、判断ミスと三塁コーチをバッサリ。ここまで言い切る監督は12球団で岡田だけではないだろうかと思う。 岡田は野手出身である。打撃や走塁、守備に関しての知識、経験は豊富で確固たる持論を有する。それは投手にも通じ、本来、苦手なはずの投手の管理にも自信を持ってきた。いわゆるオールラウンドの監督で、すべて自分で仕切ることを、監督の責務としてきた。 それだけに、少しのミスも見過ごせない。鈍感力があれば別だが、繊細力が豊富なゆえ、黙っておれないのだろう。 これを持って、一部でチームの「空中分解」の危機…と報じるところもあったが、そんなことでバラバラになるほど、コーチはやわではない。これが監督が何も言わない、コーチも無反応となれば、崩壊の危険シグナル。長く阪神を取材してきて、そのような状況を何度も目撃してきた。それに比べれば、まだまだ…といったところだ。 こういう時に重要になるのが間に入る存在で、阪神にはヘッドコーチの平田がいる。平田がこれまで選手、コーチに語り掛け、諭すようにしている姿を何度も見ている。監督の考えを説き、選手、コーチの言い分を聞き、しこりを残さないような形を作ってきた。チームのショックアブソーバー的な存在。「何かあれば時間を空けずに、話をする」。平田がいるからの調和がそこに生まれる。 シーズンは半分を過ぎたところ。1年前の73試合消化時点の成績は41勝29敗3分け。貯金12だった。いまは勝率5割ジャスト。これまで何度も借金のピンチがありながら、踏ん張ってきたタイガースだ。後ろを振り返る暇はない。【内匠宏幸】(敬称略)(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「岡田の野球よ」)